新潟大学大学院医歯学総合研究科 産婦人科学分野 教授 吉原 弘祐
この度、2022年9月1日付けで新潟大学大学院医歯学総合研究科産婦人科学分野の教授を拝命いたしましたので、新潟市医師会会員の先生方に就任のご挨拶を申し上げます。私は福岡県飯塚市で生まれましたが、父親の仕事の関係で神奈川県、茨城県、千葉県、茨城県と高校進学までに4回の引っ越しがありました。そのため、各県に親しみがありますが、あまり故郷という感覚がありませんでした。1997年に新潟大学医学部に入学してから海外留学の2年半と鶴岡市立荘内病院勤務の1年を除くと20年以上新潟に住んでおり、いまでは新潟が故郷のようになっています。
さて、教授就任後に真っ先に着手したのが、医師の働き方改革への対応です。2021年5月に改正医療法が成立し、「罰則付き時間外労働時間上限規制」が2024年4月から医師に適用されることになっておりましたので、教授就任から1年半で、新潟県内の産婦人科診療維持のために産婦人科医の働き方改革に対応する必要がありました。
時間外労働時間上限規制ですが、病院の機能などに応じて診療従事勤務医の時間外労働がA・B・C水準に分類され、年間時間外労働上限がA水準は960時間に、B・C水準では1860時間になります。また、健康措置として面接指導は義務化され、連続勤務時間制限や勤務間インターバルなど休息時間の確保がA水準で努力義務、B・C水準では義務化されます。このような水準を達成するとともに、高い質の産婦人科診療を維持し、勤務医師の経済的補償も確保するためには、まずは現状の把握が重要になります。2020年の日本産婦人科医会勤務医部会の調査では、自施設の時間外在院時間に外部施設の在院時間を加算した場合、分娩取扱病院の年間時間外在院時間は平均1934時間であることが報告されており、B・C水準を上回っています。ただし、この数字は平均であり、個々の労働時間に注目する必要があります。厚生労働省が2019年9月に実施した「医師14万人調査」では大学所属の産婦人科医で年間時間外労働が1860時間換算以上の割合は11.8%という結果でしたが、2020年に日本産科婦人科学会サステイナブル委員会が実施した10大学を対象としたタイムスタディでは、年間時間外労働が1860時間換算以上の割合が30%を超えていました。2021年に新潟大学および新潟県下の分娩取扱病院に勤務する産婦人科医を対象に行われたタイムスタディにおいても、新潟大学産婦人科の勤務医の48%、大学以外の分娩取扱病院の勤務医の29%が年間時間外労働1860時間換算以上でした。このような状況を打破するためには、産婦人科医を増やすことが最も効果的ですが、2024年4月までの限られた時間では困難ですので、長期的な視点でしっかり取り組んでまいります。短期的には、各施設でタスクシフティングなど様々な工夫により勤務時間短縮に向けて取り組んでいくことが必要です。そして、医療者を守り、医療の質を向上させるという医師の働き方改革の理念を忘れてはいけません。残された時間は限られておりますが、関係各所と連携・協力して、産婦人科医の働き方改革を達成できるように尽力していく所存です。会員の先生方におかれましては、何卒ご指導、ご鞭撻を賜りますようよろしくお願い申し上げます。
(令和5年3月号)