新潟大学歯学部長
新潟大学大学院医歯学総合研究科 摂食嚥下リハビリテーション学分野 教授
井上 誠
このたび、新潟市医師会様のご依頼によりご挨拶させていただく機会をいただきました。私は現在、新潟大学歯学部長を拝命しております。また、新潟大学医歯学総合病院においては口腔リハビリテーション科・摂食嚥下機能回復部に所属し、歯科医として高齢者歯科、摂食嚥下障害の治療を行っています。担当患者の多くは医科からの紹介によるものであり、脳血管疾患、神経疾患、周術期をはじめとする摂食嚥下障害患者の治療をする中で、多職種連携の重要性を病院、医師の皆様にもご理解いただきながら勤務する毎日です。
私が所属する新潟大学歯学部は、日本で3番目の国立大学歯学部として昭和40年に設置されました。当時は、産業の発展とともに現在の日本社会の基盤を作る高度成長期の真っ只中でした。歯科を取り巻く環境といえば、“虫歯の洪水”時代と言われ、虫歯を有する患者が多いことに加えて歯科医師も少なく、歯学部卒業後まもなく開業していった歯科医師が活躍することで地域歯科医療を支えていました。歯学部設置から50年以上を経た現在、日本の高齢化率は30%に達しようという超高齢社会となりました。そこで求められる歯科医療は、単なる歯の治療から、広く「食べる」、「飲み込む」、「話す」といった口腔機能の維持管理に変化しており、これまでの形態回復を中心とした健常者型から機能重視の高齢者型というパラダイムシフトの時代を迎えています。
厚生労働省では、医師の需給不足を受けて、現在も医学部の定員増を行っています。一方、歯科医師の数は昭和40-50年代に歯科医師不足が叫ばれて全国の歯学部・歯科大学を4倍近くも新設した結果、現在では歯科医師過剰といわれ、歯科医院の数はコンビニエンスストアの数よりも多いと揶揄されています。平成18年、文部科学省と厚生労働省は歯科医師の「数」の改善に取り組むこととし、以降、歯科医師国家試験合格者、合格率ともに、これまでを大きく下回るものになりました。その後、歯科を志す若者の減少が顕著となり、「歯科医師需給問題」は新たな局面に入っています。そのひとつの側面が高齢者歯科医療に垣間見えます。高齢者の増加とともに増加した在宅歯科医療の需要に対して、実際の訪問歯科診療提供体制にはかなりの乖離があるとされています。これらの患者のほとんどは何らかの形で摂食嚥下障害を有しています。在宅での診療を余儀なくされる患者さんが多くなる一方で、ことに摂食嚥下障害を専門的に診ることができる歯科医が不足していることは大きな課題となっています。新潟大学歯学部では、平成26年から新潟県歯科医師会と連携して、摂食嚥下障害の治療を行うことのできる専門歯科医の養成を行っています。また、新潟大学歯学部では平成16年に全国で初めて4年制の口腔生命福祉学科を設置し、保健・医療・福祉を総合的にマネジメントできる専門家を養成することを目的として歯科衛生士と社会福祉士の2つの国家試験受験資格を取得できるカリキュラムを提供しています。
新潟市医師会員の先生方におかれましては、超高齢社会において医科歯科連携のもとに社会に貢献する歯科医療従事者への変わらぬご指導・ご鞭撻を賜りますよう、宜しくお願いいたします。
(令和5年6月号)