新潟大学大学院医歯学総合研究科
健康寿命延伸・運動器疾患医学講座 特任教授
今井 教雄
近年の高齢者の増加に伴い、骨脆弱性骨折の増加は本邦のみならず、全世界的に大きな問題となっています。しかしながら整形外科以外の先生方にとってはあまりピンとこないのではないかと思いますし、一般市民にとってはなおさらのことと思います。骨粗鬆症は年を取れば誰でもなるもの・さほど怖くないものと「誤解」をされていると思われているため、全国平均で6%程度しか骨粗鬆症検診を受けている人がいません。この事態を重くみた厚生労働省は骨粗鬆症検診を見直し、より多くの人が検診を受けることにより、骨粗鬆症予備軍を早期に発見し、治療介入をすることで脆弱性骨折を減らす対策を講じることが2022年9月30日の新潟日報で報じられました。脆弱性骨折を減らす取り組みは医療関係者だけでなく、もはや一般の方にも広く知られるものとなっています。
皆様は新潟県において後期高齢者における入院件数および入院医療費の原因の第一位は何だかご存じでしょうか?おそらく肺炎や心不全を想起されたのではないでしょうか。実は入院件数、入院医療費ともに骨折が第一位です(2019年など)。ひとたび大腿骨近位部(股関節周囲)や椎体などの脆弱性骨折を起こすと2/3の人は移動能力や活動性が低下します。これにより、現在要支援・要介護の12%は骨折が原因となっております。つまり高齢者の脆弱性骨折は自分の日常生活にも骨が折れる(困難になる)だけでなく、介護にも骨が折れます。自分が骨を折ることは介護をする子どもや孫の代が骨を折ることにつながるのです。では、これらの骨折を起こした人が受傷から1年以内に何%くらい亡くなるでしょうか?実は受傷から1年以内に15%程度の人が亡くなると報告されています。意外と思われるかもしれませんが、脆弱性骨折は死に直結するのです。そのため、「骨折を未然に防ぐこと」は折れた骨を治すこと以上に重要なのかもしれません。
本邦では以前から一度骨折を起こした人は次の骨折(二次骨折)を生じやすいことが知られています。前述の通り一度脆弱性骨折を起こした人は容易に活動性が低下することから、近年二次骨折予防を目的として多職種が連携を行う「骨折リエゾンサービス」の取り組みが全国的に広がっています。いろいろな科、職種の方が骨折予防や骨粗鬆症診療に関心を持って頂き、整形外科と連携を行うことで骨粗鬆症治療継続率の増加、骨折発生率の低減につながることが期待できます。新潟県内でもいくつかのリエゾンチームが立ち上がり、多職種や各々の周囲の施設と連携をしながら取り組む姿が新潟日報(2022年3月3日)に報じられ、一般の人の目にも触れるものとなっております。また、脆弱性骨折を起こした人の子どもも脆弱性骨折の危険性が2倍ほど高いことが分かっています。脆弱性骨折患者の子どもが何年か後に高齢者となり、脆弱性骨折を起こすことを「参時骨折」と呼んでいます。骨折患者(80~90歳代)の付き添いで来た子ども(といっても50~70歳代の人)の世代から骨折予防の重要性を啓発し、「骨折のバトン」を親から子に渡さない、子が親から受け取らない対策をしていくことも重要と考えております。参時骨折予防は医療機関だけでなく、調剤薬局等でも取り組んでいこうと思っております。オール新潟で脆弱性骨折を減らし、健康寿命日本一を目指していきましょう。
(令和5年8月号)