新潟大学医歯学総合研究科 腫瘍内科学分野 教授
西條 康夫
現在、働き方改革2024年問題として、物流業界や建設業界の抱える問題や今後の対応が新聞紙上をにぎわせています。一方、医師の働き方改革が、新聞やテレビで取り上げられることは少ないと感じます。2024年4月から、いよいよ医師の働き方改革が実行に移されますが、長年の課題であった医師の長時間労働が改善し、よりよい医療の実現がなされるのを願っています。昭和・平成・令和と長らく勤務医として働いてきた筆者も、長時間労働が当たり前から適切な労働へと時代の変化を実感し、この改革が医師の処遇改善に結びつくことを願っています。
平成29年3月28日(2017年)「働き方改革実行計画」が閣議決定され、平成30年6月29日には「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」が成立しました。この「働き方改革実行計画」は、日本経済再生に向けた労働制度の抜本的改革を目的として、13項目について広範な行動計画が定められています。この項目の1つに、「罰則付き時間外労働の上限規制の導入など長時間労働の是正」があり、自動車運転、建設、医師、研究開発の4業種が取り上げられています。長時間労働が常態化している運転手、建設従事者、医師の長時間労働を是正することが、明示されました。
その後、医師の働き方改革に関する様々な検討会が数多く行われました。この検討会で医師の長時間労働の実態が明らかになると同時に、長時間労働是正に向けた方策が検討されました。平成28年度の厚労科研費で行われた研究では、病院勤務医で、法定週40時間内は、15%に過ぎず、年960時間の超過勤務以内は58.5%で、実に40%の医師が、年間960時間の超過勤務を超える実態が明らかとなりました。特に、20・30代の若手医師、脳神経外科、外科、救急科、産婦人科に長時間労働が多いことが明らかとなりました。病院別調査では、大学病院、救命救急機能を有する病院、400床以上の病院で長時間勤務医師の割合が多い傾向にありました。これらの調査では、「宿日直中の待機時間」を除いているので、実態はもっと長い労働時間であることは明白です。長時間労働の原因は、数多く指摘されていますが、中でも医師数の絶対的不足、過剰な病床数と長い平均在院日数、多い外来受診回数が指摘されています。
長時間労働を生む構造的な問題の解決には、医療施設・医療者側と医療受益者である国民の双方の理解と協力そして取り組みが必要になります。とりわけ医療機関においては、適切な労務管理の推進とタスクシフト/シェアの推進が求められています。具体的には、2点に集約されます。①時間外労働の上限規制(A水準:年間960時間、連携B・B・C水準:年間1,860時間)、②健康確保処置の適用(面接指導、休息時間の確保)です。兼業先の勤務時間、日当直も労働時間に含まれますので、地域医療の影響も懸念されています。技術的なものとして、各医師のA、B、C基準申請と中小病院の宿日直許可申請による労働時間外認定が挙げられます。B、C水準の年間上限1,860時間はいずれ960時間にすべきでしょう。また宿日直も給与が支払われますし、実態からも労働であるのは明白で、いずれ労働時間外認定はなくすべきと思います。
長期的には、医師数の増加を目指した医師養成、適正な医療機関の配置による病床数の削減や病院の統廃合、タスクシフトの推進に加えて、大学病院における医師待遇の改善が求められます。特に収入を兼業に依存する大学病院における若手医師の待遇改善は喫緊の課題です。長時間労働改善に向けて、私たち勤務医が出来ることもあると思います。先ず①働き方に対する意識改革、②主治医制からチーム診療体制への移行、③週末夜間などの対応の分担、などがすぐに実行に移せるものと考えいています。
一方で、大学医学部や大学病院の教育や研究機能をどうやって維持するかとういう問題が生じます。若手医師の自己研鑽の定義の問題もあります。これらの問題も、個々の医師の努力に頼るのではなく、制度的な問題として、働き方改革を通して、解決していくべきものと考えています。
医師が、適切な労働環境で、体力的にそして精神的に余裕を持って診療にあたることができれば、医療の質が向上することは明白です。そして、日本の医療がより良くなることを願っています。
(令和5年11月号)