新潟大学医学部医学科 医学教育学分野 教授
岡崎 史子
令和5年1月1日より新潟大学に着任いたしました岡崎史子です。平成3年に東京慈恵会医科大学を卒業し概ね総合診療医として仕事をしてきましたが、平成23年から医療者教育学に転身し、医学教育専門家、医療者教育学修士として特に倫理、プロフェッショナリズム、コミュニケーション教育や、地域医療教育、臨床実習について実践および研究をしてまいりました。
新潟大学に赴任して医学教育について感じていることが3つあります。
1.国際交流プログラムが充実
新潟大学では夏休みの10日程度の短期留学、研究室配属で8週間の留学、臨床実習の6週間の留学など、国際交流プログラムが非常に充実していて多くの学生が参加しています。
2.リサーチマインドが熱い
大学の先生方の研究に対する情熱に感銘を受けました。学生も脳研究を見据えて入学してくるなど、国が推進している基礎研究医養成にさらにコミットできるのではないかと感じています。
3.臨床実習はもう一工夫必要
新潟大学の先生方は診療、研究、教育に非常に頑張っていらっしゃいますが、学生数に比して教員数は多くなく病床数も限られているため、診療参加型臨床実習についてはやや課題があります。
現在、医学生は国の定めた知識(CBT)および技能・態度試験(OSCE)に合格しないと臨床実習ができないというしくみになっており、その上で国は診療参加型臨床実習を推進しています。診療参加とは丁稚奉公ということで、医学生でも指導医の監督のもと医行為をどんどんやらせるということです。医学生の9割は将来臨床医になりたいと言っています。
本学で診療参加型臨床実習を推進するにはどうしたらよいか。臨床実習はどの大学でも大学病院がメインとなっています。大学には大学でしか治療できない患者さんが集まりますが、その結果、医学生は脱水の患者さんをみたことがないなど、common diseaseに疎いまま卒業することになります。国民の医療ニーズの多くは地域にあるとデータに示されており、医学生はもっともっと地域で医療を学ばねばなりません。つまり診療参加型臨床実習の推進のためにはどうしても地域の先生方のお力が必要です。
また、臨床実習だけでなく、最近では低学年での患者接触カリキュラムが重要だと言われています。多くの医学部では、低学年の医学生に地域の医療機関だけでなく、介護福祉施設、老健、訪問看護ステーションなどで実習させています。それは治す医療だけでなく支える医療があり、これからはそういう医療も重要であるということを医学生に学んでもらう必要があるからです。残念ながら現在、そのような実習は本学で必修化されておりません。
幸い、新潟市には多くの熱心な地域医療を担う先生方や医療従事者の方がおられます。大学で基本的な知識、技能、態度を教え、もしできましたら地域の医療現場で丁稚奉公させていただき、大学でしか診療できない患者さんもいれば、自宅に帰ったあと様々なケアを受けながら生活する人もいるということを医学生のうちに学んでほしい。そのような臨床教育が実現できれば研究に臨床、新潟の医学教育は鬼に金棒になると思っています。
先生方には是非とも医学生の様々な地域での実習にご協力いただければ幸いです。教育は必ず地域医療の活性化にもつながります。これからの医師育成にご協力のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
(令和5年12月号)