新潟県立がんセンター新潟病院 院長
田中 洋史
令和5年4月より院長を拝命しております。新潟市医師会の皆様には、平素よりご指導とご支援を賜り心より御礼申し上げます。1月1日の能登半年地震では、新潟市においても多くの被害がありました。被災された皆様にお見舞いを申し上げますとともに、心身の回復と復興を心よりお祈り申し上げます。
厚生労働省の人口動態統計によれば、令和4年1年間で、新潟県では3万2313人(全国では156万8961人)の方が亡くなられており、そのうちがんによる死亡は7867人(全国では38万5787人)で24.3%(全国では24.6%)を占めていました。これは、心疾患と脳血管疾患による死亡数を合わせた数よりも多く、がんは死亡原因の最多を占めていました。人口高齢化の影響を除いた年齢調整率でみると、がんによる死亡は1990年代半ばをピークに減少し、がんの罹患は2010年前後まで増加し、その後ほぼ横ばいで推移しています。しかし、実態は罹患数、死亡数ともに増加傾向が続いています。人口の高齢化は、がんの罹患と死亡が増加し続けていることの大きな要因となっています。高齢者では、しばしば認知機能や身体機能の低下、合併症の増加が認められ、治療への忍容性が低下し、標準的な治療法の適応の難しさを実感します。独居高齢者の増加は、意思決定支援の難しさにもつながっています。
令和5年3月25日に閣議決定された国の第4次がん対策推進計画では、誰一人取り残さないがん対策を推進し、全ての国民とともにがんの克服を目指すことが全体目標として設定され、がん予防、がん医療、がんとの共生の3分野での方策が示されました。これをもとに同年12月25日には、令和6年からの第5次がん研究10か年戦略の概要が定められました。そこでは、今後推進すべきがん研究・開発として、高齢者のがんを含む、ライフステージやがんの特性に着目した研究が明記されました。“誰一人取り残さない”、“全ての国民とともに”、といった言葉の背景には、がん診療の均霑化があります。その一方で、近年のがん診療の進歩には目覚ましいものがあります。免疫チェックポイント阻害薬や分子標的治療薬の開発・導入、がんゲノム医療の実装による個別化治療の実現、ロボット手術や高精度放射線治療の導入などによる低侵襲性治療の進歩は、患者さんの予後や生活の質の改善につながっています。どの地域にあっても、年齢も含めてどのような背景があっても、最善の治療を受けられるようにすることが理想ですが、がん診療の急激な進歩は、均霑化を進める上での課題にもなっています。
当院は新潟県の都道府県がん診療拠点病院として、医師会の皆様をはじめ、新潟大学、他の拠点病院、行政、地域の皆様と連携し、新潟県のがん診療を支えてまいりました。社会情勢が大きく変貌する中で、従来と同様の感覚では対応が難しくなっていることを実感しています。そのような中で、元旦の地震は、最新の正確な情報の重要性を改めて考えるきっかけになりました。最新のがん診療を学び、実践するとともに、その情報を皆様に発信し、共有していくことが、がん診療の均霑化につながっていくと考えております。
今後とも、地域のがん診療の拠点として、皆様のお役に立てるように尽力してまいります。医師会の皆様には引き続き、ご指導を賜りたく何卒よろしくお願い申し上げます。
(令和6年3月号)