新潟大学 医学部長
佐藤 昇
医学部医学科の学生は、そのほとんどが卒業後に医師免許を取得し、医師として現場で診療に当たる。近年の急速に進行する少子高齢化などに伴い、医療分野におけるニーズは日々、高度化・多様化している。医療ニーズの高度化・多様化に伴い、人材育成についてもこれまで以上の変化・工夫が求められている。
医療面での大きな変化の一つとして、手術支援ロボットや医療用人工知能(AI)などの技術革新がもたらす変化が挙げられる。特に最近は生成AIの開発・応用が急速に進んでおり、問診や画像などの診断、治療計画の立案、がんゲノム医療、医薬品開発など様々な場面で活用されるであろう。IoT(Internet of Things)などデジタル技術と生成AIなどの活用は今後の医療現場では待ったなしの状況であり、これらを駆使できる人材育成は必須となっていくと思われる。またこれらの技術革新を駆使した研究や技術革新自体を推し進める研究を推進することが重要となり、研究能力を持った人材を育成することが必要となる。
社会構造の変化が医療においても変革を促しつつある。日本全体では医師数が増加し続けており、一方で人口減少については止まる見込みはない。2020年の推計によると、2029年−2032年には医師需給が均衡し、その後は供給超過になると見込まれている。一方で初期臨床研修の変化によって、大学から若手医師が減り、結果として医師不足地域においては、ますます医師不足に拍車がかかる状況となっている。この医師偏在に関わる問題は新潟県において特に顕著であり、医師不足の解消に向けて医学科では、入学定員を臨時定員の地域枠40名を含む1学年140名と大学設置基準ギリギリまで拡大して対応している。
また医療ニーズも超高齢社会に移行することで、これまで以上に高齢者の様々な問題に対応できる総合診療能力を有する人材を育成することが重要となる。これまでの大学病院等をフィールドとする高度専門医療人材育成に加えて、地域の病院で活躍する総合診療ができる医師養成にも力を入れる必要がある。新潟大学でも高度化する医療に対応するため臓器別専門化を進めてきていたが、最近になって一階部分である「総合診療学講座」を設置し、学生、若手医師のみならず医師のリカレント教育としての総合診療能力を高めるための取り組みを推進している。
人口減少の局面においては、医療資源を人的にも物的にも集約して有効に活用することが、医療を地域に提供するために必要である。人的には多職種連携がこれまで以上に重要となり、医療職間のみならず行政や地域とも連携することが必要となる。地域ごとに課題や特徴が異なるため、多くの地域で様々な経験を積むことが大切である。医学部においても、これまで以上に地域での実習で学生に多職種連携・協働を実感してもらう取り組みを加速させる必要がある。
社会構造の変化や技術革新に対応するにはより多様な人材を医学部で受け入れ育成する必要がある。経済開発協力機構(OECD)が発表している2020年のデータでは、日本の女性医師割合は約23%となっており、OECD加盟国では日本は38か国の中で最下位となっている。日本ではこの春から医師の働き方改革がスタートしているが、働き方改革が奏功しているアメリカにおいては女性医師の増加は目覚ましく、2017年には医学部に入学する女性が男性を上回っている。将来の医師が偏りなく多様な人材で成り立つことで、医療ニーズの高度化・多様化に対応が可能となる。働き方改革を進め、多様な人材育成を進めることが今後益々重要となる。
(令和6年8月号)