新潟市医師会 副会長
大滝 一
はじめに
会員の皆様には日頃より医師会活動にご協力賜り心より感謝申し上げます。
さて今月から、インフルエンザに加え新型コロナウイルスワクチンの定期予防接種が始まっておりますが、皆様の施設での接種状況はいかがでしょうか。昨年の5月8日に、それまでの2類相当から5類感染症となり、それ以降はマスコミで取り上げられる機会もかなり減りました。
しかし、2023年の1年間に新型コロナウイルス感染症で亡くなられた方は3万8千人にも及んでいます。特に高齢者に多いことから、今回の定期接種の対象となる65歳以上の方、60~64歳で心臓病などの一定の基礎疾患をお持ちの方には積極的に予防接種を勧奨していただきたいと思います。よろしくお願いいたします。
今回のこのコーナーでは9月5日に開かれた令和6年度新潟市医師会病院長連絡会議の話題を中心に、診療報酬改定や日本医師会(以後 日医)などについて思うところを述べさせていただきます。
病院長連絡会議
この会議は年に1回、新潟市内の42病院の病院長にお集まりいただき開催され、今回が10回目となります。
今回の協議事項は二つで、一つが「働き方改革による新潟地域の救急医療体制への影響」、もう一つが「令和6年度診療報酬改定の影響」でした。いずれも今年の医療界にとって極めて大事な事案です。さらに救急医療に関して新潟市消防局と医師会から後述する二つの話題提供がありました。
働き方改革と救急医療
まず働き方改革では、新潟市においては特に大きな問題もなく新体制が実施されているとのことでした。全国的には労働時間の制限から救急要請を断り問題になったという事例や、医師の自己研鑽の時間の取り扱いなど難しい問題もあります。改革の実施期間がまだ半年と短いことから、今後2、3年の勤務実態を検証する必要があるように思います。
次に新潟市の救急医療のあり方ですが、市の消防局から「ICT救急体制」について、救急隊が今までの「メモと電話」のアナログ体制から「タブレット端末とインターネット活用」のICT体制にシフトしていくとの報告がありました。
これは現在25隊ある救急隊がタブレット端末を携行し、それに心電図、画像を含めた患者情報を記録しオンラインで病院に配信、その情報を基に患者受け入れを行う、というシステムです。既に札幌市や千葉市で実践されており、この秋から新潟市でも試行とのことで、搬送時間短縮と救急隊員の負担軽減が期待されます。搬送を受け入れる病院にとってもメリットが多いようです。
次に急患診療センター(以後 急患センター)の電子カルテ導入ですが、これは令和元年から医師会より新潟市に要望してきた案件です。この10月には新潟市の救急関連の23病院の全てで電子カルテが導入され、新潟市の救急関連施設で紙カルテは一次救急の拠点である急患センターだけとなります。患者情報を一次から三次まで電子媒体で共有するためにも、来年11月の導入を目指しているところです。
現在紙カルテをお使いで、電子カルテに触れたことがない先生方にも十分配慮したいと考えております。電子カルテ導入後も引き続き急患センターへの出務をお願いいたします。
今後の最大の課題は、いわゆる「救急車の有料化」です。これは200床以上の病院で救急搬送され入院とならなかった場合、紹介状を持たない初診患者さんと同様に「選定療養費」を徴収するというものです。すでに三重県松阪市の3病院でこの6月からこの制度が始まっており、茨城県の200床以上の23病院でも12月から任意で徴収が始まります。世界的には救急搬送は有料の国が多くなっています。賛否両論あり、課題は多いものの国内での有料化が今後加速するものと思われます。
診療報酬改定
病院長会議のもう一つの議題は診療報酬改定でした。さて、この6月の診療報酬改定、皆様への影響はいかがでしょうか?
まず今回の改定率ですが全体で+0.88%でした。当初日医は最低でも+5%と公言していました。一方財務省は、新型コロナ感染症で各種助成がなされた2年前を基準に、十分利益が上がっているとの判断から-5%と強硬に主張しておりました。まず、財務省のこの基準設定そのものが適正とはいえず、2年間の物価高騰も考慮されておらず大きな問題と思います。
諸物価はこの2年間で5.8%上昇しています。従業員の賃金、検査機器や各種医療材料、光熱費などすべてが上昇しているにも関わらず、+0.88%では実質的には大幅なマイナス改定と言わざるをえません。昭和46年の13.6%はないとしても、せめて+3%は何とかしてほしかったというのが本音です。我々の収入のほとんどは診療報酬からですので、中医協と日医には今以上に強い姿勢で財務省に対峙してほしいと思います。
病院経営の現状
今回の診療報酬改定では内科を中心に病院、診療所ともに厳しい改定になりました。財務省は診療報酬改定において今後さらに強い姿勢で対応してくるのではないかと懸念されます。
今、病院経営も大変です。新潟県内の13の県立病院と11の厚生連の病院は、戦後における県内の医療を支えてきた二つの屋台骨です。それが戦後80年経って大幅な赤字経営となっています。
また、全国に42ある国立大学病院のうち32病院が赤字で2023年度は総額で60億円の赤字とのことです。新潟市内の病院の経営も厳しい状況と思われ、病院長の先生方のご苦労がしのばれます。
日医について
日医の体力が弱体化しています。日医設立時の昭和25年は全国で7万人の医師のうち75%が日医会員でした。今は組織率が50%程度となっており、半数割れが危惧されます。会費無料化を大学卒業後2年から5年に延長し会員数が増えたとのことですが、私見として入会率の低い大学勤務医の新潟市と県の医師会費を無料化し、日医の会費を2万8千円から1万円にしてはどうかと思います。何と言っても会費が高すぎます。
患者負担の増額は避けたいところですが、日医は組織率を高め、強い組織を作り、会員が満足できる診療報酬を勝ち取ること、これが最終的には良質な医療の提供に繋がると思います。
新潟の今後について
新潟においては、高齢者人口がピークを迎える15年後の2040年、さらにはその先の30年、40年先を見据え病院の集約化、統合も含めて合理的な病院態勢を構築する必要があると思います。
医師会としても英知を結集して、救急医療も含め新潟地域の医療体制の今後の充実と合理化を目指していきたいと考えています。会員の皆様には引き続き医師会活動にご協力賜りますようよろしくお願い申し上げます。