新潟市医師会 会長
岡田 潔
あけましておめでとうございます!!
2025年は昭和でカウントするとちょうど100年。地域医療構想や地域包括ケアシステムでさえも、歴史の大きな流れの中ではちっぽけな泡のようなものかもしれません。
新潟市医師会の歴史は昭和を上回って、設立されたのは明治40年(1907年)です。戦後の昭和22年(1947年)には新生新潟市医師会が設立されました。2007年に新潟市が政令市に移行、広域合併したタイミングで、2009年に新潟市医師会館を紫竹山に移転しました。その時に急患診療センターを日本一の8科に増やしたところ、新潟市の一次救急医療体制はすごいらしいと評判になって、全国の医師会から色々な先生がたが視察に訪れました。
トランプ次期米大統領の大統領就任式が今年1月20日に首都のワシントンで行われます。アメリカ歴代大統領の中では、1893年のクリーブランド大統領以来二人目の、退任後に返り咲く二度目の大統領です。
トランプ前大統領が銃撃された事件からもう半年になります。事件直後、血を流しながら拳を突き上げた前大統領を撮影した1枚の写真が有名になりました。テレビやネットで何度も報道されましたが、偶然にも星条旗が背景になっています。銃撃直後、まだ犯人が次の引金を引くかもしれないという危険な状況の中でも、星条旗を背にして血まみれの顔で拳を突き上げ「ファイト!」と叫んだ姿を観て、多数の米国民が「これこそ強いリーダーだ!」と感じたでしょう。私も、好きとか嫌いとかではなく、一人の人間として、その勇気と精神力、行動力には驚きました。ニュースを観た瞬間、言葉も出なかったし、この人には絶対に敵わないと思ったことを覚えています。
ドナルド・トランプが繰り返し口にする「アメリカを再び偉大に(Make America Great Again=MAGA)」は、もともとは同じ共和党のロナルド・レーガンが1980年の大統領選で勝利した時のスローガンだったようです。レーガン政権は減税で社会福祉の予算を大幅にカットして「小さな政府」を作りました。そして何よりも彼が目指したのは「強いアメリカ」です。旧ソ連には強気の姿勢で突き進もうとして、軍事費のほうには多額の資金を注ぎ込みました。
松本吉郎先生は日本医師会長に就任した1期目から、トランプと同じく「強い医師会」を目標にしています。これはあくまでも比喩なので、日本医師会はトランプ次期政権とは別物です。今期は2期目ですが松本先生は「さらに一段進める医療政策を打ち出し、強力に進めたい」と話されて、組織力の強化に全力投球すると同時に「次の2年間はもっと厳しい2年間になると思っている」とも言われました。これは少子高齢化が進むことで医療費を含んだ社会保障費が増えることに対して、これを抑制しようという意見や風潮が、社会的にも、何よりも政府筋から増えてくることを見越しての発言です。時代の流れに逆らうことはできませんが、日々高度化、高額化している医療のレベルを落とさずに、しかも医療従事者とその家族の生活を支えていくためには、日本医師会が一枚岩となった強力な組織力が必要だと、松本先生は考えています。
日本医師会副会長の釜萢敏先生が、日本医師連盟の組織内候補として今年の参議院選挙に立候補します。釜萢先生は「2025年7月の参議院選挙に向けて全国を回り、得票を重ねるという仕事は重要だと思っている」と話されました。
私は日本医師会長の松本先生が挙げられている、以下の二つの課題を強調したいです。
①物価・賃金の伸びを給付に反映すると保険料率が上昇する問題
財務省の財政制度等審議会(財政審)財政制度分科会で、社会保障分野においては、高齢化等により、給付費が雇用者報酬を上回って増加しており、保険料率が上昇していると結論。これに加えて、物価・賃金の伸びを給付費に反映した場合、ますますの保険料率の上昇につながり、現役世代の負担が更に増加するので、医療給付・介護給付費の伸びを抑制するような制度改革が必要との考えを示した。
日本医師会は賃金・物価上昇は医療機関経営に深刻な影響を与えており、地域医療が崩壊しかねず、賃上げ、物価高騰への対応は喫緊の課題であり、医療機関に対して補助金や診療報酬など、あらゆる選択肢を含めて機動的に対応を講じるよう要望。
②焦点となっている医師の偏在対策
財務省は財政審財政制度分科会で、自由開業・自由標榜の見直し、外来医師多数区域での保険医新規参入の制限、ある地域で特定の診療科での医療サービスが過剰と判断される場合に減算対象とするなど、医師偏在に対しては規制的手法を主張。
日本医師会は、医師の偏在対策をディスインセンティブで行うのではなく、国による必要な財政支援、好事例の横展開、研修等で支えることを基本として、インセンティブを設けるのが大前提と強調。松本先生は医師の偏在解消は、「一つの手段で解決するような『魔法の杖』は存在せず、丁寧な議論が必要である」と説明。医師の偏在解消策は、医師多数区域・少数区域といった全国一律の基準ではなく、行政、大学病院や派遣する病院、医師会、医療関係団体、住民の協議等を踏まえ、議論すべきとした。
私は財政審からは医療従事者は経営者ではなく聖人君子でいろと言われているんだと感じました。また、医師である私たちの努力で平均寿命が伸びて保険料率が上昇しましたが、財務省は保険料率が伸びることが罪悪であるような認識です。給付費を上から抑えつけるような制度を持ち込まれてしまうと、医療の世界は自由な民主主義から社会主義化してしまって、そのうちに市場経済から隔離されて国家管理となるのではないかと、私は思いました。