新潟大学大学院医歯学総合研究科 精神医学分野 教授
朴 秀賢
このたび、令和7年4月1日付で新潟大学大学院医歯学総合研究科精神医学分野の教授を拝命いたしました。新潟の地で新しい歩みを始めるにあたり、この場をお借りして、新潟市医師会の皆様へ心よりご挨拶申し上げます。
私は大阪府堺市の出身で、高校の生物の授業で分子生物学を学んだ際にその美しさ・不思議さに魅せられたことを契機に基礎医学の研究者を志し、京都大学医学部に進学しました。学部生時代に発生に関わる新規bHLH型転写調節因子を発見したことで研究の奥深さと発見の喜びを知り、平成10年に卒業後は京都大学医学部神経・細胞薬理学教室で大学院生として低分子量GTP結合蛋白質に関する基礎研究に従事しました。途中、マックス・プランク分子生理学研究所(独・ドルトムント)に留学し、欧州の優秀な研究者達と議論を重ねる中で、柔軟な発想と広い視野を培いました。
そんな折、親しい友人がうつ病を患い、その苦しみを間近で見たことが私の進路を変える大きな契機となりました。精神医学は、まだ解明されていない領域が多く、人の人生に深く関わる分野です。「この道でなら誰かの力になれる」との思いから、平成14年に北海道大学医学部精神医学教室へ入局しました。
研修後は北海道十勝地方の国立病院機構帯広病院に勤務し、地域精神医療の「最後の砦」として年齢や症状を問わず全ての患者さんを受け入れました。児童期から老年期まで、急性期から慢性期まで、あらゆるケースに向き合い、他科との連携(リエゾン)にも全力を注ぎました。この経験は、精神科医としての土台を築くかけがえのない時間となりました。
その後、北海道大学で気分障害・統合失調症の診療や電気けいれん療法(ECT)とリエゾンを担いつつ、神経細胞新生やアストロサイト、エピジェネティクスに着目した気分障害の基礎研究を進めました。平成24年からはアルバート・アインシュタイン医科大学(米・ニューヨーク)で発達障害の基礎研究を行い、研究の新たな視点と技術を吸収しました。帰国後は神戸大学でECTを、熊本大学では反復経頭蓋磁気刺激療法(rTMS)を、それぞれ導入しました。加えて、アルコール関連疾患や周産期メンタルヘルスでも多職種と連携し、研究ではmiRNAや神経細胞新生、アストロサイトを軸に精神疾患の理解を深める研究を行ってきました。
このように、国内外で基礎と臨床の両面にわたりバランスよく積み重ねてきた多彩な経験は、私の最大の財産です。今後はこの経験と、当教室の伝統・実績を融合させ、新潟大学と新潟県の精神医療の発展に全力で貢献してまいります。
就任以来、新潟の皆様には温かく迎えていただき、日々の暮らしと仕事に深い充実感を感じております。一方で、大学や地域医療を取り巻く環境は決して容易ではありません。しかし、この新潟でいただいたご縁と信頼は、何ものにも代えがたい宝です。困難を恐れず、仲間と共に知恵を出し合い、力を合わせ、教室と地域医療を守り育て、次の世代へと確かな形で引き継いでいく覚悟です。
これからも、患者さん一人ひとりに寄り添い、精神医学の進歩と地域医療の充実に取り組んでまいります。皆様のご指導とご支援を力に変え、新潟から全国、そして世界へと希望を発信できる教室を築いてまいります。今後とも、変わらぬお力添えを心よりお願い申し上げます。
(令和7年9月号)