新潟市医師会 副会長
大滝 一
●はじめに
会員の先生方におかれましては、日々の診療に加え医師会活動にご協力賜り心より感謝申し上げます。今年もあと2か月余りとなりましたが、皆様にとってこの一年はいかがでしょうか。現時点では過去に類を見ない異常高温と全国各地での線状降水帯発生はあるものの、感染症のパンデックや能登半島地震のような極めて大きな災厄はない年になりそうです。ただ、それとは異なる大きな問題がクローズアップされた年ではないかと思います。医療界では、医療DXやかかりつけ医などの課題も数多ありますが、今回はそれこそ医療の根幹となる診療報酬の問題に的を絞って考えてみたいと思います。
●厳しい現状
改めていうまでもなく、医療を取り巻く環境はかつてない厳しい局面を迎えています。物価高騰、人件費上昇、各種補助金打ち切り、さらには人口減少、新型コロナ後の受診控えで病院、診療所、薬局、介護施設などにおいて経営への圧力は強まる一方です。
令和5、6年の物価上昇率は5.9%、賃金上昇率は8.7%という中で、病院の7割が赤字経営、先日の日本医師会の調査では、診療所も45%が赤字という結果でした。そのような状況で、老朽化した病院の建て替え、耐用年数の切れた医療機器の更新、人員の補充が十分できないということが日常的に起こっています。本来あってはならないことと思います。また医療機関の倒産件数は近年増加傾向にあり、令和6年度は64件で前年度の1.5倍でした。新潟でも県立病院、JA新潟厚生連、新潟大学病院や新潟市民病院などで厳しい経営改善が進められています。新潟の医療の屋台骨を背負う病院であり、その努力に感服するとともに、心より応援のエールを送りたいと思います。
●診療報酬
令和元年以降の診療報酬の改定率は1%未満の小幅なプラス改定が多いのですが、ここで一昨年の年末を振り返ってみましょう。令和4年の改定率が0.94%のマイナス改定であったため、日本医師会は令和6年の改定では最低でも5%のプラス改定を断固として要望、それに対して財務省は「医師は儲かっている」という恣意的とも思える資料を示し5%のマイナス改定を譲らず。そして決まったのが名ばかりのプラス改定0.88%です。
しかし、来年の6月は絶対にそういうわけにはいきません。前述の諸事情から1%前後のわずかなプラス改定では日本の医療が根底から揺さぶられる危険があります。私たちが本来注力すべきは患者さんの健康と命を守ることでありますが、その土台を支える経営基盤が揺らげば、だれでも、いつでも、どこでも安価な料金で受診できる世界に誇る日本の医療が危機にさらされかねません。そして、そのしわ寄せは最終的に国民に降りかかります。
診療報酬は医療機関にとって唯一といってよい大事な収入源であるだけではなく、国民が安心して医療を受けられる体制を守る投資と私は考えています。医療を支える仕組みが健全に機能してこそ、社会と経済の安定、発展も保証されるのです。政府と財務省にぜひ熟慮してほしい点です。財務省には財務省のポリシーがあると思いますが、ここ数年の人口減少、パンデミック後の受診控えで以前とは世相と実情も変わってきています。財務省も今までのように増税と社会保証費削減ありきでは今後の医療行政に支障を来すことは必至です。我々も今までの診療体制や医師会活動などを今一度見直す必要があるかもしれません。
●では我々に何ができるか?
物価、補助金、診療報酬を自ら決めることはできませんし、そういった面でできることはほとんどありません。かつては昭和47年に+13.7%を勝ち取ったときもありますが、その結果は国民には評価されませんでした。ただ時代も世相も当時とは大きく変わっています。国民は安心・安全な暮らしには医療がとても重要であること、また医療経営が極めて厳しい現状にあることも知っています。
我々はとにかく声を上げることです。診療報酬を自らの手で改定はできなくても、まずは関心を持って、声を上げること、みなで声を上げていると、必ずその声を耳にする人がいますし、いろいろなところに声が届く可能性が出てきます。それが広がれば大きな波となります。次回の改定で、診療報酬について当初政府は「高齢化の伸びの範囲に抑える」としていました。それが今回の2025年の方針では「経済・物価動向等を踏まえた対応に相当する増加分を加算する」と譲歩の文言が追記されました。日本医師会の強い要望が届いた結果だと思います。
新潟市医師会報は日本医師会も毎号必ず目を通しています。まずはこの会報を通して、次回診療報酬の10%以上のプラス改定を日本医師会に新潟市医師会からとして声を上げてみます。声を大にして頑張りましょう!
(令和7年10月号)