下越病院 院長
末武 修史
最近、久しぶりに大河ドラマを面白いと思う。「豊臣兄弟」・・・豊臣秀吉を支えた弟の秀長の話である。
個人的には大河ドラマには、戦国時代に東北地域を席巻した南部晴政・信直親子の話か、関ケ原の敗戦後に牢人から大名まで昇りつめた立花宗茂の話を期待しているのだが、どちらにしても豊臣家が関わってくる。もちろん歴史ドラマであり、史実とフィクションを入り交ぜての脚本となっているのだが、後者が多いとドラマとしては面白く感じ新しい歴史解釈を評価できる反面、時代考証や人物描写にリアリティがなくなり違和感も多く感じる。特に歴史好きな、いや歴史にうるさい歴史オタクや歴女からは辛辣な評価となろう。
秀吉人気は高いと言われている。出生そのものがその後の人生を決める時代に、命が軽んじられ死と隣り合わせであった時代に農民から関白まで出世したことにより、現在でも「豊臣」にあやかろうとする人は多く、秀吉に由来する史跡の多くは観光名所になっている。一方、江戸時代には秀吉を貶めようとする幕府側の思惑・・・幕藩体制を維持するためには当然だが・・・もあったようだ。朝鮮出兵:文禄・慶長の役を失敗/敗戦とし庶民に広めたらしいが、実際には農村などの民間レベルでは負け戦という意識は希薄だったという。国学者の本居宣長は朝鮮出兵を秀吉の偉業と称えており、実際には幕府の思惑通りにいかず豊臣家の人気は残っていたらしい。一方、儒学者の貝原益軒は次のように論じたという。即ち「戦には義兵・応兵・貪兵・驕兵・忿兵の5つがあり、仁徳ある為政者は義兵(正義の戦争)と応兵(自衛戦争)のみ行う、国家が戦争を好めば必ず滅び、天下が戦争を忘れれば必ず危うい」と。そして「豊臣秀吉の朝鮮出兵は貪欲・驕慢・憤怒に基づく貪兵・驕兵・忿兵であり、大義名分のある戦ではなく、やむをえない自衛戦争でもない。正当な理由なく戦争を起こすことは天道の憎むところであり、豊臣家が滅亡したのは自業自得である」と評した。
2022年2月に発したロシアによるウクライナへの侵攻、2023年10月にはパレスチナとイスラエル、そして2026年1月にはアメリカ合衆国のベネズエラへの軍事作戦、他にも国家間同士、国内での局所の紛争は多い。それぞれ歴史的事由や宗教的理由などもあるだろうが、義兵:正義の戦争と断言できるものはない。
「義」とは儒教では五常(仁、義、礼、智、信)の一つであり人として守るべき正しい道だという。1月にバラエティテレビ番組で「日本全国8000人に聞いた好きな戦国武将ランキング」というものがあり、豊臣秀吉を抑え越後の上杉謙信が2位に選ばれた(1位は織田信長であるが)。特に50代以降の人気が高かったという。作られた虚像かもしれないが、理由は謙信公=義の生き方が心に響くのだろう。この世の中を生きていく上で「義」などを常に考え実践することは難しいだろうが、為政者や上に立つものであればせめて目指して欲しい、目指したいものである。
医療業界も経営難という現実に直面し、現在の政治状況では今後も逆転するほどの打開の兆しは見えない。病院経営を重視した医療を展開せざるを得ないのは理屈の上では分かっているが口惜しい。せめて心の中では「第一義第二仁」を旗印にした医療を提供していきたいものである。
(令和8年2月号)