風間 隆
帆船模型制作は「趣味の王様」と言われている。始めたきっかけは、通販の冊子に載っていたエンデバー号の帆船模型の写真を見たことだ。三本マスト、そしてそれらと船体をつなぐロープの複雑なネットワークの美しさに、どうしてもそれを居間に飾りたくなった。送られてきた箱はとても大きく重かった。わくわくしながらそれを開けてみて驚いた。8枚の大判の設計図には、各部分の完成図、部品番号、サイズなどの記載だけで、解説はほとんどなかった。キットなので、大砲やその他金属製のパーツなどの材料は揃っていたが、外板やマストなど木製部品は、適切な長さに切り、削り、必要に応じて曲げることで必要なパーツをひとつひとつ作らなくてはならない。これは自分には無理だと落胆し、机の下に放っておいた。
気を取り直して、何はともあれ作ってみようと箱の蓋を開けたのは2~3年してからである。帆船模型製作の日本語解説書を1冊見つけて購入。それを参考に、少しずつ作業を進めた。四苦八苦したが無心になれた。夕方酒を飲みながら、それを眺めては完成した帆船を想像して楽しんだ。船のマストが立ち、ロープをつなぐようになると、その複雑さは初心者には難解で苦労が多かったが、ますますその面白さにはまった。製作は数週に1度程度の日曜日なので、その完成には4年近くを要した。それをいろいろな角度から眺めては大海原を帆走する姿を想像して楽しんでいる。
処女作が完成間近になったころ、東京で開催されていた帆船模型同好会「ザ・ロープ」主催の展覧会を見に行った。講習会や研究会を定期的に行って切磋琢磨している会員のキットやフルスクラッチビルドの作品は、自分のそれとは比較にならないくらい素晴らしいものばかりであった。自分が遠方に住んでいて入会できないのをとても残念に思った。しかし、不思議と自分の帆船の出来にがっかりすることはなかった。むしろ、右も左もわからず独学で製作した割によくやったと思った。また、同一のキットを作っても、製作者によってその完成品に個性が表れるのがとても興味深く、趣味として続けたいと強く思った。
始めてから20年以上になるが、この間に完成したのはわずかに3艘で、制作中が2艘、手つかずのキットが2艘ある。完成品のひとつをクリニックの待合室に飾っている。最近の4年間は忙しさで中断していた。退職後の趣味と考えていたが、そろそろ再開したいと思う。ただ、以前のように指先の細かい作業ができるか、視力が耐え得るか心配である。
写真1.カティーサーク
3作目の作品でクリニックの待合室に展示している
写真2.ラトルスネイク
2作目で少し要領がわかってきた
写真3.ラトルスネイク
(平成30年7月号)