黒田 兼
海外の観光客や修学旅行生でいっぱいの京都駅・烏丸口から北に向かってバスで40分、住宅や畑が広がる長閑な景色のなかをさらに徒歩で15分、小さな山門が現れます。そこから木立の中の坂道をしばらく登っていくと、もはや街の音は聞こえません。坂の上のこれまた小さな本堂で、お寺の方に拝観料を納めて中に入ります。
学生時代から京都が好きで機会をみては何度も訪ねています。好きな場所はたくさんありますが、一番好きなお寺がこの「正伝寺」です。「獅子の児渡し」と呼ばれる比叡山を借景とした枯山水が有名です。白砂にサツキなどの刈込みだけのシンプルなお庭です。広縁に座ってこの美しい庭をいつまでも眺めます。時間がゆっくり過ぎてゆき、心が穏やかになっていくのを感じます。とても贅沢な時間です。街の中心から離れているため参拝者が少なく、この空間を独り占めできることもあります。見上げるとシミのような汚れがたくさんついた天井です。よく見ると手形らしき跡が…。京都に数カ所ある「血天井」の一つです。関ヶ原の戦いの直前、伏見城落城の際、武士たちが割腹した廊下の板を天井としたもので、彼らを供養するためと言われています。
二番目は「将軍塚青龍殿からの夜景」です。京都駅からタクシーで20分ほどの東山山頂で、春と秋にライトアップされます。昨年、紅葉の時期に行ったのですが、ここからの京都の街並みの夜景は素晴らしい。トップシーズンの日中は混雑するかもしれませんが、夜間は交通手段がタクシーだけなのでゆったり夜景を堪能できました。
三番目は「高雄山神護寺」。京都駅からバスで50分。紅葉の名所ですが私は新緑の時期が好きです。バス停から清滝川の谷を一旦下り、橋を渡って向こう岸の高雄山を登るのですが、谷全体が見渡す限り新緑に覆われるのです。長い石段の参道途中にお茶屋があります。「ひやしあめ」をいただきながらお店の方に伺うと、紅葉シーズンは大混雑するとのこと。また毎年5月1日~5日には宝物虫払い行事が行われ、教科書などで誰もが一度は見たことのある国宝伝源頼朝像などが、じっくりと、信じられないほど間近で見られます。
三十三間堂、清水寺、八坂神社など有名どころが目白押しの東山界隈を中心に、年々賑やかになっていく京都ですが、人が多いのがイヤなので、わざわざ早朝などに時間帯をずらしたり、寒さの厳しい冬に行くこともあります。奥の深い京都、まだまだ知らない場所を探しに、これからも足を運びたいと思っています。
(平成30年8月号)