廣川 徹
私の診察室の机の上にはいろいろな乗り物の置物があります。
診療で泣いた男の子をあやすのには最適なグッズです。男の子の好きな乗り物は車、電車、飛行機に大別できるように思います。
そういう私は飛行機派です。きっかけは幼少期、母の実家に帰省するため初めて飛行機に乗ったことでした。その圧倒的な速さ、非日常の素晴らしき世界、機内食(小さなサンドイッチだったように記憶しています)、そして何よりも機体の美しさの虜になりました。その流れで趣味はプラモデル作りになりました。プラモデルを選ぶ基準はスケールや好きな機体であることもさることながら箱絵(Box Art)のカッコよさでした。作り終わったプラモデルの箱絵を切り取っては部屋の壁に何枚も貼っていました。中でもRevell社の胴体に赤いガラガラヘビを描いた急降下爆撃機スツーカの箱絵は今でも忘れられません。お世辞にも上手とは言えませんでしたが、小中高校とプラモデルを作り続けました。医師になってからは作る時間など無いと思いながらも、当時女池にあったH.R.に行き“老後の楽しみに”などと勝手な理由をつけては気に入ったプラモデルを物色していました。しかし、実際に歳を重ねていくと老眼は出てくる、集中力が衰えるなど作ることが難しくなってきました。
そんなある冬の日、北光社のショーウインドウに飾られていた1冊の画集に釘付けとなりました。『フライング・カラーズ』という航空イラストレーション作品集です。ページをめくるごとに懐かしさがこみ上げ、そのイラストの美しさにため息が出ました。まるで子どものころに入った模型屋のようにBox Artの世界が広がっていました。Aviation Artとも言うそうです。作者は小池繁夫さんという1947年生まれ、小千谷市出身のかたです。富士重工のカレンダーのイラストを手掛け、長谷川製作所のプラモデルの箱絵の仕事もしています。そのイラストは、機体のパネルに打ち込まれているリベットの数まで正確に描く精密さもさることながら、空気の質感、浮遊感、背景の空の描写、様々な雲の表情、時間、その飛行機にまつわる物語とまるで実機に搭乗しているような感覚にしてくれます。私が知らない世界の名機を数多く教えてくれました。以後、小池さんの作品画集を集めたり富士重工のカレンダーを毎年購入したりして作品を愛でてきました。しかし、残念ながら富士重工のカレンダーは41年間続きましたが2016年度版で終了しました。これからは私の大好きな機体を描いた小池さんのBox Artの世界をプラモデルで表現することができないかと考えています。いつになるかわかりませんが“○○゛○ルーペ”など駆使し、完成の暁には診察室の机の上に飾り飛行機派の子どもたちといっしょに楽しみたいと思っています。
(令和元年5月号)