高橋 美徳
動画配信サイトHuluがわたしへのオススメとして『LUTHER』を推してくれたので、観てみることにした。BBC制作の刑事もので、舞台はロンドン。ジョン・ルーサーは大柄な黒人で、オックスフォードシャツに細ネクタイ、ウール地のチェスターコートを羽織って両手はズボンのウエスタンポケットに突っ込み、肩を怒らせて現場を闊歩する。タフな敏腕刑事が事件を解決しまくるドラマかなと思ったのだが、いやいや最近のテレビドラマは予想しなかった展開で視聴者を引き込んでいくものだと感心した。
現場状況や犯罪内容から犯人像を浮かび上がらせるプロファイリングがすごいと思ったのは、映画『羊たちの沈黙』を観てからである。頭脳明晰なFBI学生役のジョディ・フォスターが、地方で連続発生する通称バッファロー・ビルによる女性殺害事件の犯人を追う。協力を仰ぐのはアンソニー・ホプキンス演ずる厳重収監された連続殺人犯のハンニバル・レクター博士だ。被害者の紙ベース情報から、離れた場所で起きている事件の犯人を想像と共感で絞り込んでいく。犯人捜索を通して、2人が警察と重犯罪者という立場でありながらお互いに好意を持つようになっていく様子が描かれている。2人はこの作品でアカデミー主演女優・主演男優賞を獲得した。
最近NHK BSプレミアムで『刑事ルーサー』として放送されたが、ネタバレしないように触りを紹介したい。型破りな熱血刑事ルーサーは、鋭い洞察力と犯罪への怒りをエネルギーに事件の闇に肉薄する。社会を脅かす動機不明の猟奇的殺人事件に対し、犯人の屈折した心理を読み解き、時に手順を飛ばした危険な手法で犯人を追い込んでゆく。しかし、そのスピードに周囲はついて来られない。一方で両親殺害の容疑者となった天才女性物理学者アリス・モーガンは、人間ルーサーに惹かれていく。劇中の会話に深みがあり、哲学的であったり宗教的であったりする。正義感が強く人間味あふれるルーサーの苦悩をみていると、同姓のキング牧師やマルティン・ルターも想起されてくる。猟奇殺人の犯人役が全員白人であることも何かのメッセージなのかとも感じる。
BGMの選曲がよく、暗く重い雰囲気を創り出している。悲しげなストリングスも激しいロックもあり、中でもボーカルが実にいい。銃を使わない連続犯罪は、ロンドンの切り裂きジャック事件を思い起こさせる。グロテスクな人の一面を、高いIQと閃き、防犯カメラとネットデータで読み解いていく。足で稼ぐといわれた昔の捜査とは異なる、現代的な捜査による犯人の絞り込みの妙と、ルーサーを取り巻く人々が翻弄されていくドラマ展開が秀逸な作品だ。
(令和2年1月号)