中山 徹
会報の編集委員の重鎮であるS先生から、バンド「プロジェクト・リュリ」について会報に書くように、というご指示をいただいた。
「プロジェクト・リュリ」は佐野正俊先生と共同で活動させて頂いているバンドである。バイオリン2本とチェンバロ、そしてヴィオラ・ダ・ガンバという編成からして、レパートリーは当然ながらバロック音楽。ただしバッハやヘンデルあるいはヴィヴァルディといったバロックの王道からは外れ、フランス物がメインというややオタッキーなグループだ。
小生はこのバンドでヴィオラ・ダ・ガンバという楽器を担当している。会報編集部からの依頼には「憩いのひととき」というコンセプトが記されていた。が、自分にとって日々の診療よりもむしろ、ささやかながらの音楽活動の方が人生のメインテーマであり、後述する様な事情により、今となっては必ずしも「息抜き」的な楽しさばかりではない。ただ自分の愛する楽曲の中で「これを弾かずには人生を終えることはできない」と思う曲をこのバンドでいくつも演奏させてもらって、佐野先生はじめ共演者の皆さんには心から感謝をしている。
まずはバンド名の「リュリ」を説明させて頂かなければならない。リュリJean-Baptiste Lully(1632−1687)はルイ14世に最も愛された音楽家ではあるが、演奏中の事故で非業の死を遂げた。毀誉褒貶の激しい人生ではあったが、それでも彼の追悼のために作曲された名曲が数多く残っている。
先ほど申し上げた「弾かずには死ねない」曲の一つがルベルJean-Féry Rebel(1666−1747)作曲の「リュリ氏の墓」という追悼曲である。それともう一曲クープランFrançois Couperin(1668−1733)の組曲「フランス人」を佐野先生とチェンバロの師岡雪子さんらと合奏していくうちに、公開演奏をしてみようということになり、別な作曲家の「リュリ氏の墓」をもう一曲と、佐野先生がライフワークにされることになる、クープランの「コンセール」をプログラムに加えて、第1回の演奏会をすることになった。そのための合宿は裏磐梯で行ったが、避暑地での練習三昧も楽しく充実した思い出となっている。
さて年に一度の演奏会の方は回を重ねて、時にはネットに感想をアップしてくれる人が現れるようになった。当初は楽しく合宿して楽しく演奏をするだけだったのだが、5回目の演奏会の後、インターネットでエゴサーチをしたところ、思いもかけない文字が目に飛び込んできた。とあるブログに「クオリティ高い演奏に驚嘆」と書いてある。ぅ、うちのバンドのことでしょうか??。確かにチェンバロはドイツでピアノを学ばれた師岡雪子さんに当初からお願いしているし、もう一人のバイオリンは桐朋音大出身の庄司愛さん、声楽は令名高いソプラノ風間左智さんにお願いしてはいるので、それなりのレベルの演奏にはなっていると思ってはいたのだが…。「もう軽はずみな演奏はできない。鑑賞に堪えるレベルの演奏を常に提供しなければ」というプレッシャーがにわかに漂い始め、楽器の弦を押さえる左手、弓を操る右手の技術に関して、一から考え直すことを始めた。演奏技術の向上を目指してリハビリとも言える日々が始まったのだ。お陰様で演奏会は12回を数え、今年は11月8日(日)に13回目を予定しているが、還暦を越えた身にとって日々の個人練習は「憩い」というより既に「修行」に近いと感じ始めている。
2018年の終演後、ステージ上にて 左から、佐野、師岡、庄司、風間、筆者
師岡氏愛用の名器、柴田雄康氏製のチェンバロ
(令和2年4月号)