高橋 美徳
泳ぐ魚の姿に癒される。小学生の頃、毎日のように通ったマリンピア日本海の前身である旧新潟市水族館で、圧倒的迫力のアマゾン巨大魚コーナーを眺めていた影響だろうか。表情を読むことが難しい魚がひらひらと水槽内を泳ぎ回る姿が見たくて、熱帯魚を飼い始めたことを思い出す。窮屈な水槽に押し込めているのが気の毒になってしばらく飼育をやめていたが、衝動は抑えられず現在屋内の水槽には、日本固有種のシマドジョウ、ヤマトヌマエビ、新潟地方のタナゴであるキタノアカヒレタビラが泳いでいる。
庭に睡蓮鉢を据えてみた。大鉢に富士山噴火石を敷き、その中に田んぼの土をはった温帯性睡蓮の中鉢と越冬可能なウォーターバコパやナガバオモダカ、アンペライの小鉢を配置した。環境が落ち着いた所で、やや多めではあるがクロメダカ40匹、ミナミヌマエビ50匹、マルタニシ20匹を放った。生き物が環境に耐えて生存してくれれば、徐々に生態系が回ってくれるはずだ。植物は根の周囲に窒素を運んでくれる微生物を呼び、底石の隙間にも微生物が増えてくる。メダカはウキクサのサラダにボウフラを食べ、泳ぎ、排泄する。排泄物は底石や植物の周りに繁殖した微生物により分解され、植物に必要な窒素を供給することとなる。植物は窒素供給の見返りに光合成でつくった糖を微生物に与える。餌の食べ残しはマルタニシが担当し、植物周りの藻類はミナミヌマエビの餌となる。日照りに足し水をしてやるだけで、生体は繁殖し次世代に命をつないでいく。
餌に群がるメダカや生まれた稚エビを眺めているのが良い。ハエトリグモやショウリョウバッタも鉢の縁に現れ、楽しませてくれる。しかし中にはお呼びでないお客さんもやってくる。すだれを鉢に巻き付けて猫の悪戯を避け、百均の網を張って鳥やトンボを除けている。ヤゴが入り込むとメダカは格好の餌となり、全滅してしまうからだ。
自然のままにしておきたい気持ちもあるけれど、少し手をかけてやらないと鉢内生態環境が崩れてしまう。水草にも力関係があって、日照権を争って葉を増やす力が弱い種は劣勢となる。睡蓮鉢といいながら、今年は花に恵まれなかった。上手く冬を越し、来年は開花させたいと思っている。鉢脇に佇んでいると数箇所ヤブカに刺されるが、蚊に血液を提供するのも生物多様性維持の要素かなと思い、グッと痒みを堪えてみる。
地球の環境整備もこの程度の労力でできたら良いのにと思う。
(令和2年11月号)