長谷川 功
藤井聡太棋聖・王位の活躍で、将棋界の注目度が高まっています。将棋の対局は新聞社などが主催する8大タイトル戦が中心で、その1つ「棋王戦」は例年2月に新潟で対局が行われます。対局前日に前夜祭というパーティーがあり、両対局者をはじめ立会人や解説役の棋士、聞き手の女流棋士と懇談できます。この前夜祭に20年以上参加してお会いした棋士の中の何人かをご紹介します。
谷川浩司九段:将棋界の誰もが尊敬するレジェンド、21歳で名人になった時「名人位を1年間預からせていただきます」の謙虚な発言はあまりにも有名。谷川先生は神戸の方なので、「神戸で学会があるといつもポートピアホテルに泊まります」と申し上げると、「私もそこで結婚式をしました」と返され、神戸の話で盛り上がりました。
羽生善治九段:ご存じすべてのタイトル戦で永世称号(10期獲得などで与えられるグランドチャンピオン)を持ち、国民栄誉賞も授与された第一人者。「伝説の5二銀」について伺うと「解説の米長先生がオーバーだったようです」とクールでした。「私は米長先生と同郷です」と申し上げると、「そうですか山梨のご出身ですか」。気さくで話しやすいです。
木村一基九段:一昨年46歳で王位に、苦労しての最年長の初タイトル獲得で中年の星と話題になりました。解説もユーモラスで大人気の先生です。当院(済生会新潟病院)内科の田崎和之先生がある年の前夜祭の抽選会で10万円もする将棋の駒を当てたのですが、翌年も来られていた木村九段が「先生去年駒当たりましたよね」と覚えていてくださり感激しました。
渡辺 明名人(=棋王、王将):現在最強の棋士で頭脳明晰、話しているだけでこちらも頭が良くなったような気がします。2017年の時「今回防衛すると永世棋王ですね」と水を向けると、「永世棋王の規定は連続5期のみなので、最後のチャンスかもしれずどうしても勝ちたいです」と。藤井二冠に負けた次の日もブログを更新し、飾らない実直な先生です。
森下 卓九段:対局姿勢が美しく、「森下先生、残り5分です」と記録係に告げられると必ず「ハイ」と返事をする律儀な先生です。タイトル獲得はありませんが、6回も登場しています。話の中で森下九段が四段(プロ)になったのが昭和58年で、私の卒年と同じと分かり「お互い長くやっているといろいろありますよね」と妙に慰め合ってしまいました。
千田翔太七段:若手の注目株。プロ棋士は当然皆将棋が強いのですが、多くの棋士は1度もタイトル戦に登場できません。この若さで挑戦するだけで凄いです。千田七段は我々が末席で飲んでいるとビール片手に回ってきました。「いや恐縮です」と言うと、「師匠の指導なので」と。さすが多くの棋士を輩出する森信雄七段の門下、ファンを大事にします。
飯島栄治七段:奥様が新潟の方で、当院で里帰り出産されたのを担当したご縁で親しくさせていただいています。指導対局も受けたことがあり、推定アマ三段の田崎先生が角落ち(プロに角を落としてもらっただけで勝つのは県代表クラス)で挑みましたが、「先生この歩の頭に桂馬を打っていたら勝ちでしたよ」と詰将棋問題に誘導、さすがプロです。
写真1:渡辺明名人(左)と話が弾む、順に筆者、田崎和之先生、白根大通病院の酒井靖夫先生
写真2:山口恵梨子女流二段と、将棋が強く綺麗な女流棋士とも懇談できます
(令和3年1月号)