松浦 恵子
小学生の頃、図画の時間の記憶。鉛筆削りで尖らせた割り箸の先に墨汁を付け、輪郭線を描き絵具で彩色するという絵の描き方だった。割り箸ペンで描いた校庭のカンナの下描きは我ながらよくできた。授業時間を気にして慌てて絵の具を塗り始めたら、赤いカンナの花びらに生乾きの墨汁が滲んでしまい、後で先生に「下描きは良かったのにな」と言われた記憶。
作品は不出来だったけれど、私は図工の時間は嫌いではなかった。でも美術鑑賞は好きじゃなかった。校外学習で先生に連れられて県展やジュニア展を観に行くことがあったが、何をどう観たらいいのか、どこが面白いのか、全く興味がわかず、はっきりいって苦痛だった。松方コレクション展が新潟市で開かれ(1968年)、そこへも授業として行った記憶があるけれど、何を観たのか全く覚えていない。時を遡れるなら、「なんてもったいないことを!」と当時の自分を厳しく叱ってやりたい。
そんな私がいつの間にか旅先で美術館をめぐるようになったのは不思議だ。観たいように観て、好きなように楽しめばいいと思うようになったということか。そして10年ほど前からは日曜日の午前9時、Eテレの「日曜美術館」を心待ちにするようになった。
私が「日曜美術館」を見始めた時のキャスターは千住明さんで、それから数か月後にはキャスターが井浦新さんに代わった。私は井浦さんのことがとても気に入って、毎週欠かさずに番組を観るようになった。井浦さんとアナウンサーの伊藤敏江さん(途中から高橋美鈴さんに交代)には、様々なジャンルの作品、作者、背景を紹介してもらい、美術の楽しみを教えていただいた。放送時に開催されている展覧会が取り上げられることも多く、BS日テレの「ぶらぶら美術・博物館」でも同じ展覧会が山田五郎さんの切り口で紹介されると、その対比がとても面白い。そうして紹介された展覧会に足を運ぶようにもなった。
3年前、「日曜美術館」のキャスターが井浦新さんから小野正嗣さんに代わった時は、正直がっかりした。もう見るのをやめようかと思ったくらい。でも小野さんに代わってしばらくした時“藤田嗣治”を取り上げた回があり、そこで私の考えは変わった。小野さんは「私は藤田嗣治が好きである、藤田同様自分もフランスに留学していた。藤田と同じ“嗣”の字が私の名前にもある。眼鏡も髪形も藤田になぞらえている」というようなことを照れた様子で語られたのだ。小野さんの一風変わった外見は藤田嗣治のコピーだったと知り、照れた様子にも魅せられ、今では私はすっかり小野さんのファンである。
何だかキャスターがお気に入り、というような文章になってしまったが、お気に入りのキャスターを通して興味深い作品を知るようになった私。「これ!観に行きたい!」と思って出かけて行ける世の中に早くなってほしいと思いながら番組を愉しんでいる。
(令和3年7月号)