浅井 忍
金継ぎは、割れたり欠けたりした陶磁器やガラス器を蘇らせる技法である。金繕いともいわれる。割れた面を漆で接着し欠けた部分に漆を充填し、その漆に金粉をつけたりベンガラなどで色をつけたりする、室町時代から伝わる技法である。キズをなかったことにするのではなく、接着した線や欠けた部分を金色や朱色であえて目立つようにする。その割れたり欠けたりした部分を含めて器を愛でようとする日本人らしい修理法であると、取扱説明書に英語との併記で書いている。金継ぎは必ずしも金を使うわけではない。割れた器を漆で修復する技法の総称である。
わが家には古い器がいくつかあり、金継ぎされた器もある。割れた6寸皿を捨てようとも思ったが、もともと金継ぎが施されていた皿で、毎日のように使っていたので愛着があり、金継ぎをやってみることにした。
そこで、アマゾンからベストセラーと注釈がついている「金継ぎキット 初心者用」を購入した。キットにはチューブに入った漆や金粉0.1gや砥粉やベンガラが入っている。さらに、漆をこねるときに使うパレットや固まった漆の余分な部分を削るサンドペーパー、ディスポの手袋やマスキングテープなども入っていた。キットの他に準備しなければならないものが3つある。薄力粉、70%エタノール、それと漆床である。薄力粉は漆と混ぜて使い、70%エタノールは道具の洗浄に使う。漆床は接着した陶器を1週間ほど入れておくところで、漆の乾燥には温度を24℃~28℃、湿度を70%~85%に保つのが望ましいとされる。漆床は器が入るサイズのプラスティック容器に濡らした新聞紙などを敷いてできあがりである。
取扱説明書を繰り返し読み、YouTubeで修復の手順を視聴した。チューブから絞り出した漆と薄力粉をパレットの上で練り合わせて作った麦漆を割れた面に塗った。皿は6ピースに割れていたので、割れた面を合わせマスキングテープで固定しようとしたが、あちこち触っているうちに接着面以外にも漆がついてしまった。途中で手袋を変えるべきだった。テープで固定し終わったときには、皿の表裏の半分に漆がついて黒くなった。2時間ほど経ってから、余分なところについた漆をヘラや濡らしたティッシュペーパーを使って落とそうとしたが、つい力を入れ過ぎて皿は元の6ピースに分かれてしまった。接着面の漆をとるのに難渋した。食器洗剤をつけてメラニンキューブやタワシで擦ってなんとか漆を落としたものの、素手でやったものだから漆で指が黒くなった。漆をなめてかかってはいけないと思った。
数日後、再度試みてなんとか接着させた。接着部分を手で触るとごくわずかだが、段差が感じられた。6ピースを接着させるには、多少のずれは許容範囲であると妥協した。欠けて陥凹した部分には、漆と砥粉を混ぜたものを少し盛り上がるぐらいに充填した。漆床に入れて2週後、接着部にベンガラを混ぜた漆を細い筆で塗った(写真1)。
そうこうしているうちに、不用意にも須田菁華の5枚組4寸皿の1枚を割ってしまった。早速、金継ぎである。麦漆で接着し漆床で1週間乾燥させた。接着部分に先の細い筆で漆を塗り、数時間後、やや漆が乾いたところで金粉を真綿に含ませてつけた。ところが、金色よりも漆の黒い色が表面に出てしまい、取扱説明書やYouTubeのようにはうまくいかない。金粉が足りなくなり別途に購入しなければならなかった。漆を接着部に塗ったあと時間を空けて金粉をつける作業を何回か繰り返したが、うまくいかなかった(写真2)。職人の手で金継ぎされた蕎麦猪口(写真3)と較べると、金継ぎと呼べないくらい拙劣なでき上がりになった。
現在、金継ぎをした2枚の皿は毎日のように使っている。ほんの少しのずれと均一ではない金粉の沈着は気になるが、使うには問題はない。金継ぎで学んだことが2つある。ひとつは、漆は慎重に扱わなければならない。粗雑に扱うと皮膚に染み込んで洗ってもなかなか落ちなかったり、かぶれたりする。服に付いたら相当に厄介だ。もうひとつは、伝統の金継ぎの技法を修得するには、取扱説明書やYouTubeの動画だけではおぼつかない。つくづく「先達はあらまほしき事なり」と思った。
写真1 6寸皿ベンガラを使用
写真2 4寸皿 金粉の沈着がまばら
写真3 古伊万里の蕎麦猪口 細く均一な金継ぎが施されている
(令和4年8月号)