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花鳥画の世界

永井 明彦

何年か前の「私の憩いのひととき」欄で、2015年の春に伊藤若冲と与謝蕪村の「ジャクソン展」を観て、両大家の画業について触れた拙文を披露させていただいたことがあります。「ジャクソン展」は同い年の天才絵師、若冲と蕪村の生誕300年を記念した展覧会で、会場のサントリー美術館は多くの観客で混み合っていたことを思い出します。また、小生には高校生の頃から文通(今ではメールの遣り取り)をしている文学部出身の友人がいますが、ある時、彼女から田中一村という「亜熱帯の花鳥画」を描く画家の存在を教えてもらい、彼が昭和の若冲と言われていることを知って知的興奮を覚えたことがあります。そこで、今回は、第二の「ジャクソン展」の開催を期待して、若冲と一村の描いた花鳥画について感じたところを記し、さらに、若冲の画業を尊敬しつつ、明治期に色彩に富んだ洒脱な花鳥画を描いた渡辺省亭についても言及してみたいと思います。

今や日本美術史上最大のスターとなった伊藤若冲の多くの日本画の中でも畢生の大作である『動植綵絵』は、全30幅に及ぶ動植物を描いた極めつけの彩色画ですが、2000年に京都で若冲の「没後200年記念展覧会」が開かれるまでは、殆どの日本人がその存在さえ知らない作品でした。仏教に深く帰依していた若冲は『釈迦三尊像』とこの『動植綵絵』を京都相国寺に寄進しましたが、明治維新の廃仏毀釈で経済的に困窮した相国寺は『動植綵絵』の全幅を皇室に献上し、下賜された壱萬円はお寺の再建資金となったそうです。『動植綵絵』は現在、宮内庁が所蔵していますが、令和3年9月に晴れて国宝に指定されました。ここでは、22幅目の『牡丹小禽図』を観てみたいと思います。この花鳥図では色鮮やかな牡丹が丹念に描き込まれ、さりげなく描かれた2羽の小鳥が目を惹く美しい絵に仕上げられています。

さて、「南国の動植綵絵」を描いた田中一村は、明治に生まれ昭和に生きた不遇の日本画家で、没後の1984年にNHKの日曜美術館で『黒潮の画譜~異端の画家・田中一村』として紹介され、一躍脚光を浴びるようになりました。一村は幼少時より与謝蕪村を模した南画に才能を発揮して神童と謳われ、東京美術学校(現東京芸大)日本画科に入学しました。同期には東山魁夷や橋本明治等がいましたが、授業に馴染めずに2ヶ月で中退し、中央画壇に決別して奄美大島に移り住んで亜熱帯の自然をモチーフにした日本画を描きました。タヒチに移住したゴーギャンに因んで「日本のゴーギャン」と呼ばれることもあります。

一村が生涯手放さなかった作品『不喰芋と蘇鉄』は、植物で画面を埋め尽くして様々なモチーフが独特な雰囲気を醸し出し、『牡丹小禽図』や『薔薇小禽図』などの『動植綵絵』に通じるところがあります。若冲の『動植綵絵』と一村の奄美の連作には200年の時を超えた繋がりが感じられ、現代の装飾的なグラフィック・デザインや独創的なイラストレーションに通じるものがありますね。

また一方で、『不喰芋と蘇鉄』を観ると、アンリ・ルソーの『異国風景』を想起せずにはいられません。フランス素朴派のルソーは素人っぽい筆遣いで「日曜画家の税官吏」と言われ、熱帯のジャングルを舞台にした南国風景を描き、キュビズムやシュールレアリスムを先取りした画家として知られています。二人の画家のテーマは勿論、筆致や色使いの類似性にも驚きます。NHK日曜美術館『黒潮の画譜〜異端の画家・田中一村』では、一村がピカソの画集を持ち歩いていたことが紹介されています。彼は絵の鑑識眼が古くならないようにするためだと言っていたようですが、ピカソの前衛的な作品には共鳴するものがあったのかも知れません。

そして最後に、渡辺省亭に触れたいと思います。明治から大正にかけて活躍した省亭は、同時代の小村雪岱とともに欧米の有名な美術館に多くの作品が収蔵されているにも拘わらず、母国の日本では忘れ去られていた日本画家です。日本の画壇が「近代化」の名の下に権威主義化していったため画壇と距離を置き、晩年には展覧会に出品することも全くしなくなりました。省亭は葛飾北斎とその門人の作品を始め、江戸時代の古画を渉猟し、徹底的に研究し、ほぼ全ての下絵を自ら手掛けました。中でも特に彼が心を寄せていたのが、伊藤若冲です。

この絵は若冲の『動植綵絵』に触発され、3幅目の『雪中鴛鴦図』を省亭風に翻案して描いたものです。寸法もほぼ同じ模写に近い作品ですが、つがいの鴛鴦の配置が異なります。省亭は雌雄仲睦まじく添わせて描いていますが、若冲は雌雄がばらばらに離れています。若冲の女性に対する無関心を反映したものと言われていますが、省亭は若冲とは逆に夫婦和合の象徴の鴛鴦を自然に描いています。省亭は他にも若冲の『動植綵絵』の何幅かをかなり高度に翻案した作品として発表していますが、明治中期にこれほど若冲に注目し、対抗して同じテーマで花鳥図をここまで描けた画家はいません。150年の時を隔てた鬼才二人の邂逅は奇跡だと言わざるを得ません。

今回の「私の憩いのひととき」欄で、「花鳥図の世界」を書くにあたっては、美術史家の山下裕二氏の2冊の新書『日本美術の底力』、『商業美術家の逆襲』を参考にしました。氏は日本美術の偉大さ、ユニークさの原点を縄文文化と弥生文化を源流とする独自の視点で解き明かしており、その著述には思わず引き込まれるものがあります。一読をお勧めして筆を擱きたいと思います。

伊藤若冲『牡丹小禽図』(動植綵絵より)

田中一村『不喰芋と蘇鉄』

アンリ・ルソー『異国風景』

渡辺省亭『雪中鴛鴦図』

伊藤若冲『雪中鴛鴦図』(動植綵絵より)

(令和4年9月号)

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