高橋 美徳
入眠前のルーティンはありますか?枕灯で読書が王道だと思いますが、私は床頭台のiPad Proを見ながら横になります。眠る前にスマホやタブレットを見ると睡眠の質が落ちるとか、ブルーライトの害があるともいわれますが、今のところ私の習慣になっています。
動画配信サービスのAppleTV+は他の動画サブスクリプションと違ってコンテンツの殆どがオリジナルで、ハズレの少ないセレクトショップといった感じです。音声や字幕も多くの言語が選択でき、外国語の耳力トレーニングにもお勧めです。英国BBC制作のドキュメンタリーでデビッド・アッテンボローのナレーション(96才になられたそうです)を聞いていると、心地よい抑揚と絶妙な間が私の脳にアルファ波を誘い出してくれるのです。
オリジナルドラマの『SEE~暗黒の世界~』を紹介します。遠い未来の地球、ウイルスによって多くの人類が亡くなり、生き残ったものも視覚を失ってしまったという設定です。主人公の部族長ババ・ヴォスは映画『アクアマン』で主役を演じたジェイソン・モモア、ワイルドさと優しさを兼ね備えたキャスティングで、はまり役です。彼の所作と圧倒的な戦闘能力の高さは勝新の座頭市を思い起こさせます。未来という設定ですが、文明が壊れたあと人類は狩猟と採集が中心の原始生活を過ごしています。そんな中、視覚を持ったジャーラマレルが現れ、畏れを抱く者たちが中世ヨーロッパの魔女狩りのように排斥しようと策を講じます。
銃のない世界では手持ちの刃物武器が中心の接近戦で、日本の時代劇を思わせます。人物名もKofun、Haniwa、Edoといった日本名が用いられています。令和4年8月26日からスタートの最終シリーズではより一層日本スタイルが取り入れられ、甲冑や刀剣、着物、朽ち果てた戦艦大和や爆撃機の残骸も登場するようです。金曜日に新エピソードがアップされるので、週末が楽しみです。バイオレンスものに耐性が無い方にはお勧めしません。「憩いのひととき」に取り上げるのが憚られる激しいシーンが随所にあるのですが、これを避けて鑑賞することは困難です。派手な戦闘に目を奪われますが、根底に流れるテーマは家族愛です。
ヒトが次世代を残せてきた重要な感覚は嗅覚だと聞きました(諸説あると思います)。雌雄が出会うためには匂いで相手を探し出すのが最も効率的ということでしょう。男性フェロモンむんむんの盲目のジェイソン・モモアが、現代人はあまりに多くを視覚に頼りすぎだと感じさせてくれます。私も目を酷使していますが、目を休めて視覚以外の感覚を研ぎ澄ましてみるのも一興かも知れません。
(令和4年10月号)