勝井 豊
この映画では環境再生医、矢野智徳氏の活動に感動した前田せつ子氏が、数年間にわたって取材したものが、101分間のドキュメンタリーにまとめられている。矢野氏は北九州市に生まれた造園家で、父親の矢野徳助氏が私財を投じて始めた花木植物園「四季の丘」で家族と共に植物の世話をしながら育っている。大学で自然地理学を専攻し、在学中に1年間休学して日本一周を行い、各地の自然地理を見学。1984年に矢野園芸を創業している。
冒頭では屋久島の原生林のガジュマルの木を再生させる場面が紹介されている。木の根元の排水を改善すると淀んでいた水が一気に排水されて、弱っていたガジュマルが元気を取り戻していた。また個人宅の庭の木が茂り過ぎてしまったのを改善するために、枝の剪定や下草の刈り取り、排水の改良を行っていたが、自然に逆らわない独特の技術が駆使されている様子が、細部にわたり解説されていた。
福島県三春町には「愛姫(めごひめ)の桜」と呼ばれている有名な桜がお寺の境内にあるが、そこを3年がかりで整備する作業も取材していた。石塀や石段、駐車場などの構造物によって破壊されてしまった地下の水脈を再生することにより、愛姫の桜を含めた境内の木々は再び活気を取り戻していた。災害復旧にも関わっており、2018年7月の西日本豪雨や2019年10月の台風19号による被害の復旧作業などで活躍する姿がみられた。また仙台市内での2年がかりの大規模な造園作業では、コンクリートが張りめぐらされていた人工的な庭園を、元の自然な状態に戻す取り組みが紹介されていた。
風と水の通り道を作りながら大地を再生させるのが矢野氏の方法で、コンクリートやU字溝を使わずに、自然地形に偏在する水脈を復活させて、丸太や枝で溝を作り剪定で生じた枝葉をその中に埋めて、水の流れを確保していた。また「風の剪定」といって、枝の中間点で枝切りをすることにより風の通り道を作っていた。こうした技術が大地の再生講座を通じて普及が促進されている様子も紹介されていた。
環境保護を訴えるこの映画の自主上映も各地で行われているそうだが、新潟市内では万代地区の映画館で1週間にわたり上映された。その初日には監督の前田せつ子氏自身が出演するトークショウが上映後に行われて、映画の制作に関わる苦労話やゲスト出演した環境保護活動家や学識経験者のコメントを拝聴できて幸いであった。
製作・配給 Lingkaran Films
制作・監督・撮影・編集 前田せつ子
2022年作
(令和4年11月号)