杉野 健太郎
大学3年生のときに大学の研修でロシアに行きました。このときが初めての海外だった私は、それ以来毎年必ず海外を訪れるようになりました。
異国での経験で特に印象に残っているのが、大学5年生の終わりに友人と行ったエジプト旅行です。「エジプトはナイルの賜物」と言われるように、観光名所はだいたいナイル川沿いにあるので、金銭的に余裕があれば大型客船で優雅に過ごして猛暑に疲労することなく目的地に到着することができるのですが、格安学生旅行では当然異なります。夜行列車ではリクライニングが壊れていつ倒れるかわからない座席で緊張感を保ちながら仮眠をとり、その後はワゴン車で道なき道を数時間揺られました。
そんな我々の旅をより楽しいものにしてくれたのが、当時20歳の現地ガイド(アダム)でした。彼は日本語、英語、フランス語を話すことができ、非常に陽気な方でした。ただ、かなりテキトーなところがありました。観光地での説明は事実と異なる部分があったようで近くにいたベテランガイドから何度か怒られていましたし、写真を撮るときなんて率先して我々の中心に来るものだから、なぜか同行した友人が1人外れてアダムと我々の写真を撮ることになる、ということもありました。宗教的な理由でエジプト人は飲酒しない人が多いのですが、彼はこっそり飲んでいるとのことで現地では入手困難なビールを買ってきてくれたりして、ガイドというよりは現地の友達と一緒に旅行しているようで、とても楽しかったです。テキトーだけど前向きでユーモアがあるアダムのことを我々は非常に好きになり、電車に乗って彼と別れるときには涙する者もいました。最後に彼が用意してくれたチケットが間違っていて、数時間立ち乗りになるハメになったのも良い思い出です。
帰国し、本屋で友人と「エジプト楽しかったな~」とガイドブックを見ると、ピラミッドの前で我々がラクダに乗っている写真が掲載されていました。私にいたってはカメラ目線で満面の笑みでしたが、撮られた記憶もありませんでしたし、「本に載せて良いですか?」と聞かれもしませんでした。無断掲載ってどうなのよ?と思いながらも、しばらく行くことが無いであろう国のガイドブックを購入し、今では自分の子どもに見せて自慢しています。数年前に確認しましたが、改訂を経てもそのページはまだ残っており、エジプト旅行の定番を象徴する写真だなとほくそ笑みました。エジプトに興味のある方は、「aruco」という、定番ガイドブック「地球の歩き方」の小型版の本を是非ご覧ください。まだ私が載っているかもしれません。
中央のキャップに白いTシャツが筆者
(令和5年10月号)