松浦 恵子
私が仕事先へ自転車で出向くようになってから、かれこれ20年になる。そもそもは先方まで適当な公共交通機関がなく、かつ自転車での所要時間が20分足らずと、遠くはなかったことがきっかけだった。加えて運動不足の解消。人さまには「健康のために適度な運動を心がけましょう」などと申し上げておきながら、自らは何もしていない後ろめたさを、いくらかでも払拭する手段が自転車通勤だった。運動量も頻度も推奨される運動習慣には程遠い。それでも運動習慣を実行しているという自己満足の気持ちが、自転車移動を楽しいものにしてくれて今に至っている。
3年前に仕事先を変えた。自転車でのルートはいくつかあるが、最初に選んだのは自宅から北へ、ほぼ一直線のコースである。このコースは車の通りは多くないものの、途中に信号が3機ある。一つ目の信号が青に変わるタイミングで精いっぱいペダルを漕ぐことで二つ目の信号が赤に変わる直前に交差点を通過できる。二つ目通過のタイミングで三つ目の信号は赤になっていて、そこで必ず待たされる。下手をすれば信号3つとも赤でストップをかけられて、信号待ちをすることになる。毎朝、今日の信号クリアのほどはいかに!と猛ダッシュするのが日課だった。これを丸2年続けたのだから、それなりに愉しんでいたといえる。
3年目に入った昨年の春、仕事からの帰り道に別ルートを試してみようかな?と(ようやく)思い立ち、見つけたのがそれまでの道の東側に並行する、住宅地を通るルートである。ここには信号機はひとつもなく、交差点で一旦停止は必要だが自分のペースで走り抜けることができ、ダッシュは不要になった。その上、道の両脇の家々に植えられた樹木、草花を眺めつつペダルを漕ぐ、新たな愉しみが加わった。
春の椿、レンギョウ、雪柳、街路樹の桜、お向かい同士の庭先で競うように咲く薔薇。夏になり夾竹桃が咲き出した、百日紅がもう咲いている!我が家はまだだなぁ。秋のお彼岸に遅れること2週間、ようやく咲いた彼岸花。晩秋の日没後に通りかかった生け垣に、花ならぬイルミネーション。冬、見事な紅い花を咲かせた高さ2m以上の山茶花の木がぐるりとアパートの敷地を囲んでいる。
1年間通ったこのルート、今年も季節ごとの花を愛で、新たな出会いを楽しみに通る。まずは昨年シーズンの最後に気づいた白い藤の木との再会が待ち遠しい。
(本稿のタイトルはBS番組をパクリました)
(令和6年5月号)