髙橋 美徳
フランスはパリ。今年開催されるオリンピック・パラリンピックは歴史的建造物の周囲で競技が行われる。「広く開かれた大会」をスローガンに掲げているが、テロ対策に最も気を使っており、会場への入場は厳しく監視されている。
今回紹介するのはパリが舞台の警察ドラマだ。バディの一人・ラファエルは強引な捜査で上司からは煙たがられているが、鋭い直感と類稀な行動力で事件解決に肉薄する敏腕女性警視。政治家の父の反対を押し切って警官になり、社会的権威に屈することを最も卑しんでいる。離婚して、息子の親権について係争中である。
もう一人の主人公・アストリッドは自閉スペクトラム症で、犯罪資料局に勤務している女性。膨大な犯罪資料の内容を漏れなく記憶しているアストリッドは、さながらAIのよう。几帳面で繊細、聴覚過敏がありパニックに陥りやすく、他者の感情を汲み取ることができない悩みを抱えている。急須で淹れたお茶を飲み、畳の上で正座して沈思する、自宅内では靴を脱ぐなど生活に日本文化を多く取り入れている。パズルが何よりも好きで、犯罪捜査の謎解きやJ.Sバッハの音楽にもパズルの要素を感じている。
第一話で、二人は動機不明の焼身自殺の捜査を通して出会う。監視カメラや状況証拠から自殺としか考えられなかった事件だが、他の誰も気づかなかった過去の類似自殺事件との一致点を見出したアストリッドの指摘により、思いもよらない展開をみせていく。
正反対で息が合わないと思わせるコンビは、お互いの不利を補い合い、心の傷にも寄り添いあって友達としての関係を深めていく。自閉症当事者や、重い障害を持ちながら天才的なハッカーである出演者も登場し、障害があってもその能力を正当に評価し、多様性を受け入れて共存していく姿勢が描かれていて、フランスの進歩的なエスプリを感じる。
アストリッドを演ずるサラ・モーテンセンの役作りと演技力が素晴らしい。加えて日本語吹替版声優の貫地谷しほりも高いレベルで主人公を演じきってくれている。
休日が終わる夜は明日から始まる一週間が気重になり、サンデーナイトブルーとも、サザエさん症候群とも称される。日曜日の23時からの放送だったこのドラマは、そんな気分を軽くしてくれる上質な仕上がりになっていた。
NHKでの放送は終了しているが、シネフィルWOWWOWやその他の動画配信サービスでシーズン4まで視聴可能だ。現在シーズン5が撮影中とのことで、来年の放送が待ち遠しい。
(令和6年9月号)