新潟市医師会

  • 新潟市内の医療機関を探す診療科から
    • 内科
    • 小児科
    • 整形外科
    • 皮膚科
    • 眼科
    • 外科
    • 耳鼻咽喉科
    • 産婦人科
    • 精神科
    • 脳神経外科
    • 泌尿器科
    • 脳神経内科
    • 心療内科
    • その他
  • 新潟市内の医療機関を探す地域別から
    地域から探す
    • 秋葉区
    • 北区
    • 江南区
    • 中央区
    • 西蒲区
    • 西区
    • 東区
    • 南区
  • 休日・夜間に病気になったら急患診療センター
  • カラダのこと考えてますか?病気と健康のあれこれ
  • 医師会について
  • 市民の皆様へ
  • 医療関係者の皆様へ
  • 会員の皆様へ
  • 入会申込

新潟市医師会報より

新潟市医師会

スティーヴン・キング

浅井 忍

スティーヴン・キングの立ち位置は紛れもなくモダン・ホラーである。アメリカのごく平凡な町で日常の描写を詳細にかつ執拗に行うことが、キングの特徴である。モダン・ホラーは、現代のテクノロジー社会や都市生活において、個人の内面におけるストレスや不安から生じる恐怖を描くジャンルである。一方、クラシック・ホラーは、1920年代から1980年代前半までに発表された、人間の根源的な恐怖を描いた名作群であり、ドラキュラやフランケンシュタインなどのモンスター、ゴシックな雰囲気、心理的恐怖、そして後のホラーへの影響力の深さが特徴である。ホラー以外もキングの守備範囲は驚くほど広い。映画の原作を挙げると、『スタンド・バイ・ミー』(1986年)、『ショーシャンクの空に』(1994年)、『グリーンマイル』(1999年)などの大作を手掛けている。最近では、『ランニング・マン』(2026年1月)と『サンキュー、チャック』(2026年5月)はキングによる。

キングは『死の舞踏』(ちくま文庫 2017年)のなかで、根本的な考えに「ホラーには寓意性がある」としている。怪物は怪物そのものではなく、現実にわれわれが恐れている何かのメタファーであるという。優れたホラーは寓意であり象徴なのだ。キングは恐怖には3段階あるとする。第1段階は嫌悪「リヴィルジョン」、ウゲッとなる生理的不快さ、一番低劣な怖さである。第2段階は恐怖「ホラー」、ゾッとする感じである。暗闇、墓場、幽霊屋敷、得体の知れないものがいそうな怖さだ。怖いもの見たさはこの段階で起こる。第3段階は戦慄「テラー」、致死に限りなく近い悲鳴が上がるような体験である。キングはクラシック・ホラーの『吸血鬼ドラキュラ』、『ジキル氏とハイド』、『フランケンシュタイン』を例に挙げて、モンスターを分類している。第1段階は吸血鬼、これはセックスの恐怖だという。第2段階は「人狼」、ジキルとハイドのように、普通の人が隠している狂気である。第3段階は名前のないものである。『フランケンシュタイン』の人造人間に代表される。ちなみに、フランケンシュタインは人造人間の製作者の博士の名前である。その他に幽霊がいる。このホラーとテラーという用語は、ゴシック小説の大家と呼ばれたイタリア人作家のアン・ラドクリフ夫人が、2世紀前に言い出したものであるという。

ホラーの帝王と呼ばれ、モダン・ホラーの創始者でもあるキングの受賞歴は華々しい。世界幻想文学大賞(1982年、1995年、2004年)、ヒューゴー賞(1982年)、オー・ヘンリー賞(1996年)、ブラム・ストーカー賞(1988年、1996年、1997年、1999年、2007年、2009年)、日本推理作家協会賞・翻訳部門(2025年)など、数々の文学賞を受賞している。

キングの作品は半端のない長さの作品が多い。文庫本3、4冊に相当する作品がざらにある。2020年に読んだ『アンダー・ザ・ドーム』(2013年)は、厚い文庫本4冊分であった。そのあらすじは、アメリカ東部の人口2,000人の田舎町が、ある日突然目に見えないドームに覆われてしまう。外界から完全に隔離された町の住民は脱出と生存をかけ、ドームの謎の解明に挑むことになる。

キングの作品の多くが映画化またはテレビドラマ化されている。同じ作品が焼き直しされて採用されている場合もある。多作家であると同時に着眼点がユニークであるから、勢い映画の原作に採用される機会が多くなる。これまでの単行本の発刊数は70冊を超え、映画化作品は70点以上である。

キングは1947年生まれ、生誕地はメイン州ポートランド、メイン州はアメリカ東海岸の最北部に位置しカナダと国境を接する。ここで唐突だが、キングの作品群は登場人物に人種に著しい偏りがあることに触れたい。主人公たちはことごとく白人である。有色人種はほぼ登場しない。そんなキングの生まれた街ポートランドは、有色人種がほとんどいない白人の街であるという。作品の人種的な偏りは批判の的になっているが、キングはどこ吹く風である。

キングが2歳の時、父親ドナルドはタバコを買いに行くと言って家を出たまま失踪している。その後母親は祖父母の面倒をみながら、朝から深夜まで働き、息子2人を育てあげた。キングは地元のメイン大学を1970年に卒業して、1971年に大学の図書館でのアイバルト中に知り合ったタビサ・スプルースと結婚した。教師の職に就くが給料が安くて教職のみでは生活ができないので、放課後はクリーニング店で働き、夜は執筆に勤しんだ。その成果が『キャリー』である。1973年、『キャリー』のペーバーバック版が40万ドルで売れたことによって、本格的に作家デビューを果たした。『キャリー』は、いじめに遭っていた少女が超能力で復讐を遂げる物語である。1973年に本格的に作家の活動に入り2作目の長編『呪われた町』(1975年)を完成させた。吸血鬼の恐怖が町を崩壊させる物語である。

1974年の秋、キングはメイン州を離れてコロラド州ボルダーに移り住み、滞在中にコロラドを舞台とした『シャイニング』を書く。1975年の夏、メイン州に戻り居を構え、ボルダーを舞台とした『ザ・スタンド』を書き上げる。また『デッド・ゾーン』も同じ時期に書かれている。

1976年にメイン州バンゴアに移り住み、『IT』の構想を練りはじめる。文庫本4冊の『IT』は1986年に発刊される。殺人ピエロが恐怖を招く物語である。1977年の秋、キングは英国に移住して、本格的なゴースト・ストーリーを創作しようとするが挫折した。帰国後『クージョ』(1981年)を完成させている。その内容は、狂犬病に感染した巨大なセント・バーナード犬が、田舎町で親子を恐怖に陥れるストーリーである。1980年代の半ばから、以前からのアルコール依存症に加えて薬物依存症になり、妻から「治療を受けるか家族と別れるか」との選択を迫られて、治療を選び依存症を克服した。

『書くことについて』(小学館文庫 2013年)の最終章の「あとがき」には、キングが交通事故に遭遇したことが書かれている。1999年6月19日、散歩中に危険運転常習者の男性が運転するヴァンに轢かれて下腿に複雑骨折を負う。驚くべきことに男はこれまで交通違反で10回以上つかまっている。救急車を待つ間、最終的には救急ヘリで高次の救急病院に搬送されるのだが、加害者とのんびりと話す場面を書いている。

1985年2月9日、バンゴアの地元新聞紙上で、キングはリチャード・バックマン名義で1977年から84年にかけて5冊の本を出したことを認めた。その記事を目にしてあわてふためいたのはキングの読者たちである。あわててバックマンの本を注文したが、後の祭り。『ハイスクール・パニック』(1977年)、『ロードワーク』(1981年)、『バトルランナー』(1982年)はすでに絶版、『死のロングウォーク』(1979年)は版を重ねていたのでいくらかの在庫があったものの、これもじきに完売した。最新作の『痩せゆく男』(1984年)を除いては、もはやバックマンの4作品は通常のルートでは手に入らない幻の書物と化していたのである。

1974年に『キャリー』でデビューして以来半世紀が経過するが、その間現在に至るまでベストセラー作家のNo.1に君臨してきたキングは、旺盛な作家活動を続けている。キング自身が述べるように、「自分の誕生日と独立記念日とクリスマス以外の毎日書き続けている」ために絶えず新作の長編のストックが2、3本ある状態らしい。それに加えて、未収録の短編やエッセーが数多くあるという。「それが腐らないうちに出荷したい」とキングは語るのだが、腐らならいうちとは旬のうちにという意味で、たとえば時事ネタは遅れれば腐ってしまう。

キングの作品には批判が寄せられることはまれではない。アメリカの学校で最も検閲されている作家はキングである。「ペン・アメリカ」は、2024年から2025年にかけて6,870冊の本の撤回を予測しており、最も多く禁止された作家はキングである。キングの作品は累計206冊の禁止処分を受けているという。

ベストセラーの作家の場合、読者を少々欲求不満にしておいた方が売り上げがよいということで、出版社はキングに年1冊以上を出版することを許さない。出版したがりのキングは、出版社の機嫌を損ねないように限定盤という少部数形式で、出版してきたという。だが、未発表の作品が次第に溜まっていく。作品が腐らないうちに出荷されるためには、ペンネームが必要だったのである。キングにはリチャード・バックマンのほかにもジョン・スウィゼンというペンネームがある。このペンネームを使って書いたのはホラーでなくて犯罪小説だった。

かつては、ホラー小説の登場人物と言えば青い顔をしてオカルト文献の目録を作成するオタク図書館員やら老隠遁者と相場は決まっていた。多くのホラー作家は、エドガー・アラン・ポーのスタイルに従って作品をエキゾチックに華やかにする。おかげで、一般の読者は初めの2、3ページでついていけなくなってしまう。キングは伝統的なゴースト・ストーリーのキャラクター像を一新させたのである。キングは普通の人々を登場人物に仕立てるのが実にうまい作家だ。

キングの愛読書の1冊に、英国のノーベル賞作家ウィリアム・ゴールディングの代表作『蝿の王』(新潮文庫 1975年)がある。20年前に『蝿の王』をネットで申し込むと、日焼けした汚い文庫本が送られてきた。1万円を超える稀覯本である。その後2017年に、誠に迷惑なことに、『蝿の王』の新訳版が早川書房から「ハヤカワepi文庫」の1冊として出版された。わが本棚でひときわ輝きを放っていた『蝿の王』が、新訳本の出現で輝きに陰りが見えたことは、はなはだ残念である。

最近、劇場で『ランニング・マン』を観た。原作はスティーヴン・キングすなわちリチャード・バックマン名義になっているが、まさにキングらしい展開の作品であった。キングらしいというのは、主人公に災難がこれでもかというほど執拗に降りかかってくるという意味である。

キングは2026年も弛まず大好きな執筆に勤しんでいることだろう。

次々、スティーヴン・キング原作の映画が公開されるものだから、書き足さなければならなくなった。それは、『サンキュー・チャック』(5月1日公開)であり、ドキュメンタリー『チェイン・リアクションズ』だ。そして、『ロングウォーク』が6月26日に公開を控えている。

参考図書

『スティーヴン・キング論集成 アメリカの悪夢と超現実的光景』風間賢二 青土社 2021年

『ランニング・マン』スティーヴン・キング リチャード・バックマン名義 酒井昭伸訳 扶養社ミステリー 2025年

『書くことについて』スティーヴン・キング 田村義進訳 小学館文 2013年

『死の舞踏 恐怖についての10章』スティーヴン・キング 安野玲訳 ちくま文庫 2017年

(令和8年5月号)

  • < テレマークスキーでカッコよく滑る
  • 私の柚子物語 >
新潟市医師会報より
新潟市の素描画
  • 2026年度作品一覧
  • 2025年度作品一覧
  • 2024年度作品一覧
  • 2023年度作品一覧
  • 2022年度作品一覧
  • 2021年度作品一覧
  • 2020年度作品一覧
  • 2019年度作品一覧
  • 2018年度作品一覧
  • 2017年度作品一覧
  • 2016年度作品一覧
  • 2015年度作品一覧
  • 2014年度作品一覧
  • 2013年度作品一覧
  • 2012年度作品一覧
  • 2011年度作品一覧
  • 2010年度作品一覧
  • 2009年度作品一覧
  • 2008年度作品一覧
  • 2007年度作品一覧
  • 2006年度作品一覧
  • 2005年度作品一覧
巻頭言
学術
特集
病気と健康のあれこれ
寄稿
開院の自己紹介
わたしの好きな店
マイライブラリィ
私の憩いのひととき
旭町キャンパスめぐり
病院だより
勤務医ツイート
Doctor's Café
理事のひとこと
新潟市一次救急医療施設の利用状況
あとがき
  • トップページへ
  • ホームページTOPへ戻る
  • このページの先頭へ
新潟市医師会事務局
〒950-0914 新潟市中央区紫竹山3丁目3番11号
TEL : 025-240-4131 FAX : 025-240-6760e-mail : niigatashi@niigata.med.or.jp
  • ご利用にあたって
  • プライバシーポリシー
  • サイトマップ
  • リンク
  • お問合せ
©2013 Medical Association of Niigata City.