小澤 武文
昨年10月医局で新着の医療タイムスの頁をめくっていたら本書の宣伝が目に入った。「東京、神田司町の一角にある小さなジャズバー”Gugan”での常連客とマスターとのカウンター越しの会話がジャズの名曲とともに書かれている」との案内であり、読者プレゼントとしてFAX又はE-mailで申し込むと抽選で20名に無料配布と書かれている。抽選ではずれたら購入しようと思い早速FAXで申し込んだら何と2日後に本書が郵送されてきたのですぐに目を通した。
何故本書が医療タイムスの案内に掲載されているか当初判断がつかなかったが、読んでいくうちに事情がつかめた。本書の著者は”Gugan”の常連客であり、当時産経新聞文化部編集委員であった桑原聡さんと、マスターである山本博一さんの二人である。本書の前半部「酒とジャズの日々」は平成20年3月~21年2月の間、産経新聞の文化欄に週1回のコラムとして桑原さん自身が執筆していたのをまとめたものである。一方医療タイムス社の会長である林兼道さんは大のジャズファンであり、“Gugan”に出入りするようになり著者と親しくなったようである。桑原さんは産経新聞でのコラム掲載終了後に著書として発刊をめざしたが、時間不足、資金不足でうやむやになっていたらしいが、医療タイムス社の林さんの突然の発案で本書発刊の運びとなったようである。
本書後半部は新聞に掲載された42回分のコラムに対してマスターがカウンターの反対側から感じた「酒とジャズの日々のひび」としての一文を追加寄稿したものであり、その後に桑原さんの「続、酒とジャズの日々」と称しての追加のコラムが載っている。
桑原さんの文章は毎回600字程で、1アーチスト1曲を紹介し、それに対応する酒の名が出てくる。内容はジャズの名盤案内的なものではなく、著者の独特の感性で洒落た文体で書かれており、最後には必ずすばらしい「オチ」がついている。酒には詳しくないので知らない名の酒が登場するが、でてくる曲はフリージャズ曲を除くとよく知る曲ばかりである。マスターはフリージャズが好みのようだが、集客上ピアノトリオやジャズボーカルを止むなく流しているらしい。来店する客の年令層でジャズの好みにやや違いがあるようで、著者2人は小生より10数才若く、少し好みが異なっているような気がする。小生と同世代の客も描かれているが、店内で流れている曲は道路を歩いていても聞こえるらしく、多くは古いジャズボーカルを耳にして入って来るらしい。小生もジュリー・ロンドンやアン・バートンの声が聞こえてきたらふらっと店内に入るであろう。ただし喫煙者優先の店らしいので長居はしないだろう。都心のジャズバーでは若い女性が一人で来店することもあり、神秘的に描かれている女性も登場する。本書を読むと、行った事がなくても店のイメージが浮かんでくる。
本書の読み方として頁の順に読むより、最初に著者と編者の「あと書き」を読み、その後で桑原さんの「酒とジャズの日々」と対応する山本さんの「酒とジャズの日々のひび」を読むと面白い。
本書は一般書店では展示されていないようだ。入手希望者は医療タイムスに毎回注文書が載っているのでそれを利用したらよいと思う。
『酒とジャズの日々』
著者 | 桑原 聡・山本 博一 |
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出版社 | 医療タイムス社 |
価格 | 1,200円(税別) |
(平成23年3月号)