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新潟市医師会報より

新潟市医師会

『ルリボシカミキリの青』

笹川 富士雄

1年前のある日曜の午後、暇つぶしにネットで新刊書を探すともなく探していたとき、偶然この『ルリボシカミキリの青』を見つけました。その時はまだ福岡伸一なる人物がどんな人物でどんなものを書く方かわかりませんでした。はじめの数ページが読めるのでまず読んでみました。プロローグに「……あこがれたのはルリボシカミキリだった。小さなカミキリムシ。でもめったに採集できない。その青色は、どんな絵の具をもってしても描けないくらいあざやかで深く青い。こんな青は、フェルメールだって出すことができない。……」。この文章を読んで大の虫好きだった私の心は小学校時代に戻って行きました。そう、学校が終わると玄関のすぐ先にあった階段にランドセルを投げ出して、虫取り網を手に駆け出して行ったあの頃。私の一番好きだった虫がこのルリボシカミキリでした。あまりにも美しい虫。図鑑でしか見たことがないけれど、いつかは捕まえてみたいと何百回となく図鑑を見つめ続け、何十回夢の中でその鮮やかな青い虫を捕まえては、目が覚めてそれが夢だとわかってがっかりしたことでしょう。

さらに読み進めると、最初のコラムではウイルスについて書かれています。要約すれば「ウイルスは生物の出発点、初源形態でそれがだんだん進化して複雑化していったものではない。ウイルスはかつてわたしたちのゲノムの一部であったものが複製、転写の過程で、たまたまはずみで細胞外に飛び出してしまった断片。多くのものは分解されて絶えたが、わずかなものだけが少しずつ変化して殻で身を守るようになったもの。そして、彼らはかつて自分が属していたものを探し続けている。そして、そこにたどりついてもあまりにも変わり果てているために排除されてしまう。」これって本当なんでしょうか。30年以上前の浜田先生のウイルス学の授業では習わなかったなあ。

本の題名にも、その内容にも大いに刺激を受け、翌日、勇んでジュンク堂に買いに行きました。表紙の上のほうに鮮やかにその虫が写っています。絶妙な黒い斑点が青の美しさを引き立てています。こんなに心弾む気持ちで本を購入したのは久しぶりでした。

さて、こんな私の強い思い入れは先生方をしらけさせるのではないかと危惧し、脇に置いて本題に入ることにします。

著者の福岡伸一さんは京都大学農学部を卒業し、ハーバード大学医学部研究員を経て、現在は青山学院大学理工学部教授をされています。専攻は分子生物学。ベストセラーになった『生物と無生物のあいだ』でサントリー学芸賞・新書大賞を受賞しています。この本は週刊文春に連載中のコラム『福岡ハカセのパラレルターン・パラドクス』を再構成・再編集し手を加えたものです。研究生活を中心に、その時々の事件やハヤリごと、あるいは身辺のよしなしごとを綴ったものです。その中で私が面白いと思ったところをさらにいくつかご紹介します。

末端複製問題=テロメア研究。これは、DNA複製の際、最初の繋ぎはじめに足場=テロメア、が必要となりますが、途中で不要になって捨てられます。その結果、新しく合成されたDNAはこの足場の分だけ端っこが短くなると予想されます。DNAが何度も何度も複製を繰り返せばDNAは少しずつ短くなっていき、ついにはDNAの情報が損なわれてしまうのではないかという問題です。この謎を解いたエリザベス・ブラックバーンは、DNAが何千にも分割されていてテロメアがたくさん取れる「テトラヒメナ」という微生物を選びました。結局、テロメアの正体は、削られても大事な情報が欠損しないように考えられた無意味な文字列の繰り返しでした。研究を進めてわかったことは、テロメアはどんな生物でも存在しますが少しずつ文字が違うこと、複製のたびに削られていくテロメアは複製の都度つけ足されていること。さらに、これを行っているテロメア修復酵素テロメラーゼの発見へと続きます。ここで著者は学問の王道を説きます。「難問がある。それを解くため的確なモデルを選ぶ。目的に向かってがむしゃらに仕事をする。すると次々と扉が開かれていく」と。現在では、ヒトの身体を構成するふつうの細胞にはテロメラーゼがないためテロメアの修復ができない。だから一定の回数分裂するとそれ以上増殖できなくなる。それが「老化」の問題へと繋がっていきます。また、「ガン細胞はテロメラーゼが活性化されているので無限に増殖ができる」と、「ガン」にも言及します。

ある糖タンパク質の設計図、GP2の謎。GP2はヒトだけでなくイヌ、マウスなどにとてもよく似た形で存在します。進化の途中で形が保存されているタンパク質は、生命の維持にとって重要なものだと考えられています。著者はGP2のないノックアウトマウスを作成し、何らかの異常が出るものと固唾を呑んで見守りました。しかし、マウスには何の変化も現れません。詳細な生化学検査や顕微鏡観察でもどこにも異常は見いだせません。ではGP2は生物にとってなくても良いものなのでしょうか。否。このミステリーの答えは本をお読みください。

エピローグで著者は、研究についてのコラムの他に、もう一つこの本には「隠しテーマ」があると述べています。それは教育論です。教えること、そして学ぶことはどういうことかということです。「馬を水辺に連れて行くことはできても、馬に水を飲ませることはできない」。学問の面白さを力説しても、実際に面白さを強いることはできないと著者は自戒の意味を込めて反芻します。大切なことは何か。私がこの本を読んで私なりに考えた結果、それは冒頭に書かれていました。「何か好きなことがあること、そしてその好きなことがずっと好きであり続けられること」。

この本は若い一般の人たちを対象に書かれてはいますが、昔大学で研究生活を送っていた方々には懐かしい日々が思い出されるでしょうし、開業して毎日の退屈な生活を送っている方には涼しい爽やかな風に吹かれる心地がすることでしょう。

是非、諸先生方にご一読いただきたくご紹介する次第です。

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『ルリボシカミキリの青』

著者 福岡 伸一
出版社 文藝春秋
価格 1,260円(税込み)

(平成23年5月号)

  • < 横山芳朗翻刻『渓斎白水樵夫(英泉)色自慢江戸紫』  ─浮世草紙の釈文で江戸時代の粋を楽しむ─
  • Mary Dobson原著:小林力訳 『Disease ─人類を襲った30の病魔─』 ─イギリス女性医史学者によるユニークな疾病史─ >
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