大滝 一
これはかなりの長編であり、忙しい医療関係者が読むには時間的にちょっときついかもしれません。しかし文章はいたって平易で読みやすく、超興奮ものの大作です。
舞台は中世イングランドの暗黒の時代。大聖堂建設と宗教を根本テーマにし、そこに興味の尽きない人間模様を絡めた壮大な物語です。人間の持つ素晴らしさ、それとは裏腹な政、金、色への飽くなき強欲さが描かれ、久々に心が鷲掴みされました。
3巻で約2,000ページにも及びますが、上巻の34ページまで読めば、何とも言えない魅惑的な世界に引き込まれ、あとはOK、Go!いけると思います。
全世界で2,000万部を突破する人気で、この2月にはNHK衛星ハイビジョンでも10回シリーズのドラマとして放映されたほどです。
またこの『大聖堂』は、先日亡くなられた読書家の俳優である児玉清さんも絶賛されていました。児玉さんはこの本のハードカバーを日本で購入し読み始め、その後すぐにイギリスに出張になりました。その時は重くて持って行かなかったとのことですが、どうしても読みたくなり、イギリスで原書を買って読んでいたそうです。すると今度はドイツに行くこととなり、そこでもドイツ語版を買って読了したとのことです。そこまでしても読みたくなるほど面白い本だと番組中で話しておりました。
その内容は、自分が棟梁となり大聖堂建立を夢見る激貧の放浪建築職人トム、そしてその彼に振り回される家族。トムと子、孫の3代に渡り建立を手掛けるキングスブリッジ大聖堂。彼らに力添えをする修道士フィリップの苦悩と奮闘。さらにはそのフィリップの前に立ちはだかる司教のウォールランと豪族のハムレイ一族の陰謀、暴力、略奪。そしてとても魅力的な女性たち。
この『大聖堂』はダーク エイジ ロマンと称されていますが、日本でいえば戦国時代あたりに相当するのでしょうか。神の名のもとの戦も絶えず、中世の暴力的な一面も垣間見ることができます。もちろん、男と女が繰りひろげる淫靡な綾も物語の柱として盛り込まれています。この点でも『大聖堂』は飽くことがありません。
そしてフィナーレがなんとも感動的なのです。「なーるほど、そうだったのか!」と誰もがきっと思います。
寝不足を覚悟でどうぞ読破してみてください。あくまでも診療に支障のない程度にお願いします。読みだしたら止まりませんよ!年末年始はテレビよりこっちの方がいいかも。
『大聖堂』 上、中、下巻
著者 | ケン・フォレット |
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訳 | 矢野浩三郎 |
出版社 | ソフトバンク文庫 |
価格 | 上巻852円 中巻848円 下巻852円 (すべて税別) |
(平成23年11月号)