勝井 丈美
著者は、全国から石巻へ集まった救護チームを統括指揮した石井 正医師である。文庫サイズの本の帯には、日赤の赤い救護服姿の石井氏が載っている。その写真に私は少し違和感を覚えた。20011年4月17日、救護チーム合同ミーティングの場で、私が見た石井氏は半そでTシャツにジーパン姿だった。桜が咲いていたとはいえ、現地はまだ寒かった。この指揮官のテンションは相当に高いと感じたものだ。彼が敢えて私服を着ていたわけを本の中で知った。石巻赤十字病院の外科医である石井氏が宮城県災害医療コーディネーターに任命されてから、わずか1月後にあの大震災が起こった。本書は想定外の連続の中で、延べ3,633にもなった合同救護チームを彼がどう統括し、300以上の避難所にいた5万人もの被災者の健康をどう守ったかという記録である。
本書は巻末にさくいんが付き、写真や図表も多く、実にきめ細かく実践的な「災害対応の参考書」としての面を持つ。しかしそれだけでなく、悩み、怒り、失敗して反省する石井氏の素顔あり、男の友情あり、命の保証もない治安不良地区へ救護チームを出す、出さないで激論をかわす場面ありと、生身の人間ドキュメンタリーでもある。「地獄で仏」的エピソードも数々あるが、それとても石井氏の抜群の行動力とぶれない心が呼びこんできた幸運に思えてくる。
文末の解説を長岡赤十字病院救命救急センター長の内藤万砂文先生が書いておられる。内藤先生は石井氏のブレーンの一人として、当初からサポートしてこられた。16ページにわたる解説では、災害医療の基本及び、本書のエッセンスを8項目で簡潔に述べてあり、大変示唆に富む内容だ。
私の実家は柏崎市にあるが、中越沖地震の経験から他人に起きたことは、いつか必ず我が身にも起きるということを実感した。その、もしもの時に備え、石井氏が本の中で繰り返し述べている「平時での人脈づくりの大切さ」を心に刻んだ。
最後に、自らも被災者でありながら、医療者魂で患者さんのために身を粉にして働いた、石巻赤十字病院の全職員さんたちに、心からの敬意を表したい。
『石巻災害医療の全記録』
著者 | 石井 正 |
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出版社 | 講談社 |
定価 | 940円(税別) |
(平成24年8月号)