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新潟市医師会報より

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『狼 ─その生態と歴史─』

熊谷 敬一

我が家は犬好きの家族である。現在ペットとして2匹目のイヌを飼っている。最初のイヌが中型犬であったのに対して、今のイヌは体重2kg程度の小さなイヌである。しかし、その性格は前のイヌに比べるとむしろ野性味にあふれており、ネコ目動物の特徴がよく現れていると感じられる。そもそもイヌは1万5千年以上前に人類が東アジアにおいてオオカミを家畜化したものが起原であり、オオカミとイヌを生物学上の種として区別できるほどの遺伝子の分化は進んでいないとのことである。そのため、オオカミについて知りたいと思い、読んでみたのがこの本である。

著者の平岩米吉氏は愛犬王とも称される在野の動物学研究者であり、本邦における動物文学の開発者である。大学や博物館などの公の研究機関に所属したことはなく、独学で動物学、心理学、国文学などを学び、自ら「犬科生態研究所」を発足させた。本書の成立には50年の歳月を要しており、最初はイヌとオオカミの両者について書くつもりであったが、分量が多くなったためオオカミの部分だけを独立させたのが本書である。本書の前半にはイヌ科動物全体の分類と解説が記され、次にニホンオオカミについて古代から現代までの資料に基づいて絶滅にいたるまでが詳述されている。本書の刊行が1981年であるため分類学などの生物学的な部分については最新の知見とは異なっているが、通算9匹のオオカミを含め同時に最大で30匹のイヌ科動物を著者自ら飼育したことにより観察された所見は非常に価値が高いものである。

この本を読むと従来オオカミに対してもっていた認識が変ってくる。ニホンオオカミについての最古の記録は713年のものであり、明日香の付近にいたオオカミが「大口の神」として神格化され、その土地を「大口の真神の原」といったという。オオカミはみだりに人を害するものではなく、日本ではヨーロッパにおけるようには敵視されていなかったのである。農業と漁業が中心に営まれ、牧畜がほとんど発達しなかった日本では、貴重な財産である家畜がオオカミにより被害を受けるということがなかったのと、逆に田畑を荒らすシカ、イノシシを退治する守護者とみなされたからである。また、「送り狼」という習性があり、オオカミは山野で人に出会ったとしても必ずしも襲ってくるとは限らず、どこまでも人のあとをつけてきて里近くまで送ってくれる。人が逃げたり、転んだりすると危険であり狩猟本能により襲い掛かるが、そうでなければオオカミのテリトリー外に出るまで多少の好奇心をもって監視しながらついて歩くという。この習性から、道を守るものという意味のhodophilaxという学名がニホンオオカミに対して命名されたとのことである。

ところが、1732年を境に突然、オオカミが凶暴となり狼崇拝が著しい恐怖へと変ってしまった。外国よりもたらされた狂犬病が日本本土を西から東に向かって蔓延していったのである。単独ではなく、家族が群れを形成して生息していたことが感染の伝播を加速させた。感染したオオカミは狂ったように人を襲い、その襲撃からいったんは逃れたとしても少しでも咬傷があれば1-2ヶ月の潜伏期を経て発症し、命にかかわってしまうのである。そのため銃器による狩猟の対象とされてしまった。更に、山林が切り開かれ獲物が減少したことや、ジステンパーなどの他の感染症が広がったことも影響したという。

これらの歴史の過程においてオオカミにまつわる様々なエピソードが多数紹介されているが、それぞれのエピソードが生じた年代及び地域と引用した文献の著者名、書名が詳細に記されている。また、そのエピソードの真実味の程度が評価されており、その根拠も明示され、非常に丁寧な考察が行われている。ニホンオオカミは1905年に奈良県で最後に捕獲され、その後絶滅したとされている。ニホンオオカミ残存説を信じる立場からは、目撃談などが数多く伝えられてきた。それに対して著者は一つ一つ間違いを指摘し確実な証拠はないことを示している。しかし同時に、他には絶対に存在しない小型で特殊なニホンオオカミが絶滅したことは重大であると述べており、ニホンオオカミ残存説を唱える者の一種の郷愁のような心理に対し理解を示している。

元々は猛獣と思われていたオオカミが、イヌとして人間のよきパートナとなって共存できる理由は、本来もっていたオオカミの性質の中にこそあったのだろう。著者の観察では、「狼はむしろ馴れやすく、馴れれば首領に服従したごとく飼い主に服従し、しかも、耳を引き、尾を振り、鼻声をたてるなど、全く犬と同じである」とのことである。なお、本書の姉妹編のイヌについて記述した部分は、『犬の行動と心理』として刊行されている。

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『狼 ─その生態と歴史─』

著者 平岩 米吉
出版社 築地書館
ISBNコード ISBN978-4-8067-2338-7
定価 本体2,600円+税

(平成24年9月号)

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