大滝 一
今年は田中角栄元首相が中国との国交を正常化し40年目の節目の年ですが、魚釣島に代表される尖閣諸島の領有権をめぐって日中関係が激しく揺れ動いています。
今や中国はGNPで日本を抜き世界第2位の経済大国となり、半世紀前の日本と同様にオリンピックと万博を開催し、経済面はもちろんのことレアアースなどの資源の面でも世界に対する影響力は極めて大きなものとなっています。
しかし一方では、日本も含めた近隣国との海域や領土問題、さらにはチベットの民族問題、ノーベル平和賞に対する国を挙げての拒否など人道的問題も併せ持っていることも事実です。
今に始まったことではありませんが、中国と日本のお互いに対する国民感情はこのところ悪化の一途をたどっているとされています。日中友好協会の2010年の調査では、中国で55%、日本では72%がお互いに「どちらかと言えば良くない」以上の感情を持っているという結果でした。現在はさらに悪化していることと思います。
さて、今回紹介するこの本の著者は、北京大学経哲学部出身で神戸大学文化研究科に留学し、2007年に中国から日本に帰化した「石 平」という中国問題の評論家です。最近はよくテレビにも出ており、中国や日中関係についての著書が多くあります。私がこの本を読んだのは一年前ですが、両国関係の悪化を機会に再読してみました。
著書のサブタイトルにある「暴く」や「真の姿」などをみると、かなり辛辣な表現もあり中国を酷評するかの印象がありますが、必ずしもそうではありません。著者は日本も大好きだし、中国のことも愛してやまないといったところだと思います。それにしても我々日本人は中国人の本質を知らなすぎるようです。
彼は「現代の中国人は道徳を邪悪なものとし、お金儲けと自己目標達成だけを目的とする完全な利己主義、自己主義な人民となってしまった。国もそうで、自国、つきつめれば中国共産党の利益となれば手段、方法を問わない。たとえ他国からどう評価されようと、自国の利益にならないことは断固として排除する」とのことです。個人的、企業的な約束事も不利益となればドタキャンが普通で、お人好し日本人には到底理解できないと述べています。毒入り餃子事件、魚船衝突事件、尖閣諸島問題や高速鉄道事故を見てもその一端がうかがえるような気もします。
また全世界で行われている高官や役人たちの賄賂、汚職については「中国で最大の汚職研修センターは間違いなく共産党幹部を教育する『党校』だ」と彼は言っています。また「中国は世界中から利益を搾りとる脅しとゆすりのテクニックは他国の追随を許さない」などの記述があり、なるほどと思ったりもします。ただその中国に勝る唯一の国があり「その中国をも悩ますゆすりテクニックのナンバーワン国家が北朝鮮である」の記述には、北朝鮮には申し訳ないが、納得したのと同時にあまりにも的を得すぎているようで笑ってしまいました。
中国国籍の方や北朝鮮関係の方々が私のこの記事を読んだらきっと怒るかもしれません。
ただこれは著書のほんの一部です。全体を通しては、中国の現状を紹介し正しく中国と中国人を理解した上で、今後ますます増えるであろう日中交流をスムーズに行ってほしいという作者の願いがこもっています。正直言って思わず笑ってしまうエピソードも多く、短時間で読めるとても楽しく、文字も大きく読みやすい一冊です。読後に中国人に対する興味がぐんと強くなりました。
私が知っている中国人は数少なく4人しかいません。そのうち3人は市民病院時代に黒竜江省からの留学医師で、みなさんとてもいい方たちでした。手作りのおいしい餃子もいただきましたし、日本酒と焼酎をあげたらとても喜んでいました。
もう一人は中国の某大学の教授で、中越地区で研究視察中に顔面神経麻痺になりました。新潟大学病院に入院し、顔面神経班のチーフだった私が主治医になり、その時には中国の大学の話など聞くことができて大変勉強になりました。ただし、携帯便器に腰を掛けご用中にもかかわらず、私と話したがる姿勢は日本人の私には理解を超えた一面でした。
著者は中国人と付き合う方法は簡単明快で「良心が許さない」「恥ずかしくてできない」などの道徳、倫理を捨て「お互いの利益」をただただ追求することだそうです。そしてもっといい方法は根本的に相容れない中国人とは「付き合わないこと」だそうです。そうは言ってもグローバル化のこの時代、企業などではそうもゆかないと思います。そういう方にとって、この本は中国人との対応におけるちょっとした手がかりになる一冊かと思います。
今日、8月25日にこの記事を書いています。医師会報の掲載は10月号の予定です。今朝のテレビでは韓国との竹島問題が大きく取り上げられていました。本誌の発刊の頃には、日中間の魚釣島に加え日韓間の竹島ははたしてどのような状況となっているでしょうか。とても気になります。
何はともあれ今年で日中国交正常化40年。アジアのツートップ、世界3大経済大国の2国である日本と中国、いろいろ懸案事項はあるものの、何とか協調して世界をいい方向にリードしてもらいたいものです。田中角栄、周恩来の両元首相も高所からきっとそう望んでいるに違いありません。
『中国人の正体』中華思想から暴く中国の真の姿!
著者 | 石 平 |
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出版社 | 宝島社 |
価格 | 933円+税 |
(平成24年10月号)