大滝 一
出会ってしまいました!
土曜の午後、たまたま立ち寄った本屋さんで、今お勧めの作家として百田尚樹さんの文庫本が2冊紹介されていました。『風の中のマリア』とこの『永遠の0』です。『永遠の0』の帯には「児玉清氏が絶賛、2009年最高に面白い本大賞の第1位」と書かれていました。私はこういう何々1位とかいうのに弱く、ついつい内容も確認しないままに買ってしまうことがよくあります。殆ど外れることがありませんので、あながち間違った本選びの方法ではないようです。
また「児玉清氏が絶賛!」という言葉は本誌の一昨年の11月号で紹介した『大聖堂』もそうでしたので、間違いなく面白いと私の中にインプットされています。
そこで、その2冊を購入し、まず薄くて読みやすそうな『風の中のマリア』を読みました。これは恋もせず子孫と女王蜂のために働く、オオスズメバチの働き蜂の短い一生を綴ったものです。まずまずの面白さでした。
あまり期待せずこの『永遠の0』を読みにかかりました。
司法試験3浪中のフリーターとその姉が、祖母の死に当たり、祖父とばかり思っていた人とは血の繋がりもなく、本当の祖父は別人であり、元特攻隊員であったと聞かされます。ジャーナリストの姉には、戦後60年の特集本を発刊したいという思惑があったことから、2人の祖父探しが始まります。
戦友会の名簿から、祖父を知っているという元軍人を探し出し、全国に飛び祖父についての話を聞きまくります。その中には「特攻隊員にはあるべからざる臆病者だった」とか「同じ国の軍人であったが、殺したいほど嫌いな奴だった」という旧同僚もいました。一方では「素晴らしい卓越した操縦技術を持ち、かつ慎重極まりない軍人だった」や「飛行訓練を指導してもらったが若者の命を大事にする教官だった」などの発言もありました。
その祖父は「妻と娘のために絶対死にたくない、生きて帰りたい」と強く思っていました。当時の軍隊では「お国のために死んでまいります」が当然でしたので「生きて帰りたい」などという言葉から、上官からは殴られ、同僚や後輩からは軽蔑されることが多かったのです。
その祖父は最終的に特攻隊員として命を散らします。
しかし、帰ってきます! 姿を変えて帰ってきます!
児玉清さんもあとがきに書いていますが、この本は戦争と零式戦闘機という観点から読んでも面白いし、戦争軍人の男の心意気という点でも堪能できる本です。
そしてなんといっても、本書は戦争、特攻隊員を通して「誰のために、なぜ生きるのか」という重い命題をズンと厳しく突きつけてきます。
これ以上は述べません。
最後は感動で涙が止まりませんでした。児玉清さんも「僕は号泣するのを懸命に歯を喰いしばってこらえた。が、だめだった。目から涙がとめどなく溢れた。あなたは泣かずに読めるか」と結んでいます。
百田尚樹、すごい作家です。
早速『錨を上げよ』という百田さんの長編を購入し、あっという間に読破しました。さらには『モンスター』も大傑作ですし、最新刊の『海賊と呼ばれた男』も購入しました。
私がこの本を読んだのは昨年夏ですが、今またちょっとしたブームになっていて店頭に並んでいます。
『永遠の0』
著者 | 百田 尚樹 |
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出版社 | 講談社文庫 |
価格 | 876円(税別) |
(平成25年2月号)