八木澤 久美子
勤務医時代はとにかく仕事に追われていて、窓の外を見る余裕さえありませんでした。
その日の天気すらわからずに日々を過ごしていました。それが今から数年前、大学病院を退職し、自宅の医院に入りました。それと同時に、犬の散歩も私の仕事となりました。犬と一緒に自宅近くの防砂林の中を散歩するのです。世の中には4つの季節があり、春夏秋冬の順で進んでいきます。そのことにようやく気づいたのでした。生まれて40余年のことです。
「いったいこれまで私は何をしていたのだろう?」と頭を殴られた気がしました。
そうだ、取り戻そう。青春を取り戻そう。そう決意しました。この豊かな四季を五感を使って存分に堪能しまくろうと。
春は木々の新芽を愛で、小鳥の愛らしいさえずりを聞く。夏は厳しい暑さの中、木立の風に一瞬の涼を感じる。秋は赤く黄色く変化する葉の美しさを感じる。冬はしんしんと降り積もる雪の音なき音、日本海の荒波の轟音を聞く。なんと美しく豊かな四季を持つ国よ。日本に生まれて本当によかった。この感動を誰かに伝えたい。と思っていましたらこの本に出会いました。日本には4つの季節、24の節気、72候があるのだそうです。しかも一つ一つ名前がついているのです。たとえば4月の初旬は清明といいすべてのものが清らかで生き生きとする時期とのこと。ああなんと、知らなかった。知らなかったのは私だけだったのです。昔の人びとは以前からこのことをよく知っていたのです。そして、日常生活に知恵として活かしていたのです。再び頭を殴られたような気がしました。なんと無知な私であったことか。
さて前置きが長くなりましたが今回ご紹介したいのはこの本。
『日本の七十二候を楽しむ』白井明大著
季節の説明はもちろんですが、挿絵がたくさん入っています。それはそれは愛らしい挿絵です。電子書籍が流行りの昨今ですが、これは従来の形の本でほしい。読み方としては、食卓の上に置いておいて朝、出勤前にパラパラめくり、今日がどんな日なのか知る。仕事中、ふと窓の外を見てそのことを思い出す。なんてのはいかがでしょう。小学生高学年から読めます。一家に一冊おすすめの本です。
『日本の七十二候を楽しむ』
著者 | 白井 明大 |
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出版社 | 東邦出版 |
価格 | 1,600円+税 |
(平成25年4月号)