古泉 直也
ガンダムのDVDであります。しかし、「連邦の新兵器の白いモビルスーツ」とかは、かすかにしか出ません。最初の頃のガンダムの売りだったニュータイプ(すでに死語?)もでてきません。ファーストガンダムの設定の時間軸でメインの物語の裏側・ジオン公国軍から見たお話です。例の通常の三倍の赤い角付きも出てきますが、専属の有名な声優さんの声の出演はありません。もっとも声優陣は私の年代のよく知っているような人はでていません。おまけに、フル3DCGですが、『アバター』のような精巧なものではなく、登場人物はしくじりの3DCGゲームよりちょっといい程度で人間には見えませんので、登場人物に感情移入は到底できません。
では、何がいいのでしょうか?
これは、実はガンダムに登場するもしくは本編には登場できなかった”メカたち”の物語なのであります(という、勝手な視点でみると実にいいフル3DCGアニメです)。
『機動戦士ガンダム MSイグルー −1年戦争秘録−』『機動戦士ガンダム MSイグルー 黙示録0079』とも第1~3話からなりますが、お気に入りを抜き出しますと。
『機動戦士ガンダム MSイグルー −1年戦争秘録−』第1話「大蛇はルウムに消えた」
ガンダム本編の中では物語の以前にあったとされるジオン公国軍艦隊と地球連邦軍艦隊の艦隊決戦、”ルウム戦役”の主戦場からはずれたところで、試験支援艦ヨーツンヘイムの第603技術試験隊が使う「ヨルムンガンド」と名づけられた大蛇のごとき試作艦隊決戦砲が第一話の主人公であります。あ、一応、本当の登場人物の主人公はオリヴァー・マイ技術中尉です。
しかし、この第一話の見どころはそんな動きの少ない大砲なのではありません。実は、あの「通常の三倍の赤い角付き」がガンダム本編では語られるだけの”一機で五隻の戦艦を沈める”という活躍(の五隻のうち二隻分)をフル3DCGで堪能できるところなのであります。
『機動戦士ガンダム MSイグルー −1年戦争秘録−』第2話「遠吠えは落日に染まった」
ガンダム本編ではジオン軍側ではモビルスーツの方の開発に先んじたため全く登場しないモビルタンク、その消えた試作機”負け犬”「ヒルドルブ」が、かつて採用を競い合った宿敵「ザク」が連邦軍に鹵獲されて敵にまわったことから、それを相手に戦う!というお話であります。時代においていかれて壊れた戦車乗りのデメジエール・ソンネン少佐やその声優も熱演していますが、最後の最後までぼろぼろになりながら戦い続ける「ヒルドルブ」や「ザク」達の姿におもわず涙するのであります。また「ヒルドルブ」が巨大戦車型からモビルタンク型への変形シーンが圧巻です。そういえばガンダム本編では当初合体変形しないことからおもちゃが売れなかったためスポンサーがいい顔せず、無意味な合体を時折やっていたのを思い出します。この「ヒルドルブ」はバンダイから「EXモデル 1/144 ヒルドルブ(機動戦士ガンダム MS IGLOO)」としてプラモデルが売り出されていたりもします。(すいません。プラモは得意ではないので買っていません。)
『機動戦士ガンダム MSイグルー 黙示録0079』第1話「ジャブロー上空に海原を見た」
ガンダム本編では、すでにジオン軍は宇宙に押し戻され、連邦軍本部ジャブローから連邦軍宇宙艦艇がどんどん宇宙に送り出されつつある頃のお話であります。
どんどん打ち上げられ衛星速度に加速しつつある連邦軍宇宙艦艇を「モビルダイバーシステム」で宇宙から降下しながら迎え撃つという無茶な戦法で、なぜか(丈夫だからみたいですが)水中用モビルスーツ「ズゴック」を改造した「ゼーゴック」を使う上に、その搭乗者が”海兵”というところがもうすでに無茶を超えためちゃくちゃな設定です。宇宙戦争時代の”海兵”とは何者? ガンダム本編でも水中用モビルスーツは出てきたけど”海兵”なんか出てきませんし、その”海兵”ヴェルナー・ホルバイン少尉が結構壊れていて話も実はめちゃくちゃだったので、どうもこの話はめちゃくちゃがテーマなのか? という感じです。めちゃくちゃな設定で登場させられて、めちゃくちゃな作戦に投入され使い捨てられていく「モビルダイバーシステム」のパーツと化した「ゼーゴック」が、サウンドトラック『進出ス!』のバックミュージックで健気に大気圏内に突入していくのをみると、思わず「エントリー!」(宇宙から降下するときの合図)と叫びたくなるのであります。
『機動戦士ガンダム MSイグルー 黙示録0079』第3話「雷鳴に魂は還る」
ガンダム本編のクライマックス、ア・バオア・クーの攻防戦であります。が、第603技術試験隊+カスペン大隊+試験支援艦ヨーツンヘイムというなんだか指揮系統のよくわからない混成部隊が、やっぱりいつものように主戦場から外れたEフィールドで戦います。一応の主人公のオリヴァー・マイ技術中尉が、なんと最終話でついにジオン軍側では主役級の印・”赤い”機体に乗ります。ただし、それは寄せ集めのとんでもなさそうな戦闘支援型モビルアーマー「ビグ・ラング」です。その「ビグ・ラング」が、戦うドラム缶? いや戦う棺桶のようなモビルポッド「オッゴ」を支援しながら、支援といいつつ結局は死ぬまで戦わせながら、奮戦するその悲壮な勇姿は戦争の空しさを改めて痛感させられるのであります。
他にも、各話にガンダム本編に出てきたメカ達のいろいろがフル3DCGで楽しめるDVDです。続編『機動戦士ガンダム MSイグルー2 重力戦線』は、連邦軍のお話ですが、『機動戦士ガンダム MSイグルー −1年戦争秘録−』『機動戦士ガンダム MSイグルー 黙示録0079』を見た後では、連邦軍に感情移入できなくなっているので、お勧めできないのであります。なお、『機動戦士ガンダム MSイグルー』はすべてDVDを買わなくても、PCなどでアニメ動画バンダイチャンネルhttp://www.b-ch.comでも見られます。
『機動戦士ガンダム MSイグルー −1年戦争秘録−』1~3
『機動戦士ガンダム MSイグルー 黙示録0079』1~3
販売元 | バンダイビジュアル |
---|---|
参考価格 | 各¥5,040 |
(平成25年8月号)