浅井 忍
著者の山本智章先生は、現在、新潟リハビリテーション病院院長を務め、診療と研究の多忙な日々を送っておられる。少年野球の子供達を対象に野球肘検診を地道に続け、ユニークな野球肘手帳を考案した。こうした功績が高く評価され、平成24年度「運動器の10年・日本賞」を受賞している。なお、野球肘手帳のコンパクト版が本書の巻末に綴じ込み付録として付いている。
野球は変わったスポーツである。多くのボール競技はボールがゴールに入ったり相手コートに落ちたりすることで点が入るが、野球はプレーヤーが塁を進んでいくことで点が入る。ホームランを打ってもベースを踏まなければ、点は入らない。
かつて少年たちは、小学3年生くらいになると、父親から野球のグローブを買ってもらったものだ。野球をやっていっぱしの男になれという父親のメッセージが込められていた。少年はグローブにワックスを塗って磨き、使い勝手がよくなるように右手のボールを左手のグローブの中に勢いよく叩き込む動作を繰り返し、グローブにはいつもボールを入れておいた。もちろん寝るときは、枕元におく。このことは、道具を大事にするイチローでなくとも、グローブを買ってもらった少年は誰でもやっていたことだ。
小学生レベルの野球ではピッチャーが花形で、ボールがよく飛んでくるサードとショートは上手いやつがやる。キャッチャーはがっちりタイプの使い減りしないやつ、ファーストは背が高く捕球がうまいやつ、セカンドは内野の中で重きがおかれない。外野はセンターとライトは人選を考慮するが、ボールがほとんど飛んでこないレフトは一番下手なやつがやることになっていた。打順もだいたい守備ヒエラルキーに準じた。中学生になると栄光の野球部に入部するやつと、それ以外を選ぶやつに分かれた。山本先生は前者を選んだのだ。
かつては、いかなるスポーツも練習中に水を飲むことは厳禁で、いまや禁忌とされるうさぎ跳びは準備運動の定番メニューであった。シーズン中に泳ぐことは禁止で、体を冷やしてケガをするというのが理由であった。泳いでいるのを見つかると先輩にヤキを入れられた。こうしたスポーツに関するいくつもの慣例が、間違いであったと指摘されている。
以前から、成長期における投げ過ぎに警鐘を鳴らす人は多かった。しかし、指導者は子供が痛みを訴えても無理させる傾向にあり、昔は痛いのを隠して練習したものだと言いながら、よく曲がらない変形性肘関節症の腕で額の汗を拭ったりする。本書は、こうした星一徹のような昔気質の頑固者や、医師から休むようにとの指示に不信感を抱く指導者や親たち、さらに少年野球に携わるすべての人たちが手に取るべきである。
本書の紹介文を書くにあたり、山本先生ご自身が東医体準硬式野球の優勝ピッチャーであることを必ず書くようにと念を押されたので、付け加えます。
『「野球ひじ」を治す・防ぐ・鍛える』
著者 | 山本智章 |
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出版社 | マキノ出版 |
発行年月 | 2013年7月 |
価格 | 1,300円+税 |
(平成25年8月号)