大川 彰
本書にはタイトルである『王城の護衛者』をはじめとする5編の中編が収められており、著者の司馬遼太郎は幕末に活躍した5人の人物を描いています。
『王城の護衛者』は昭和40年秋に『別冊文芸春秋』(第93号)に発表され、会津松平家藩主松平容保を主人公として滅び行く会津藩の姿を描いています。『加茂の水』は昭和40年春『別冊文芸春秋』(第91号)に掲載され、岩倉具視の懐刀であった公家出身の僧玉松操を通じて王政復古の変革劇を描写しています。『王城の護衛者』と『加茂の水』は権力を失う側と掌握する側の裏面に光を当てた対をなす作品と言えます。『鬼謀の人』は昭和39年2月の『小説新潮』に掲載され、長州出身の軍略家で上野彰義隊攻撃の指揮をとり明治以降の近代的兵制の生みの親となった大村益次郎が描かれています。『英雄児』は昭和39年1月の『別冊文芸春秋』(第86号)に発表され、越後長岡藩の軍備を西洋式に改革し北越戦争を主導して官軍に対峙した長岡藩家老河井継之助を主人公としています。『鬼謀の人』と『英雄児』もそれぞれ立場の異なる軍事指導者を描いており、この2編も対をなす作品と言えます。『人斬り以蔵』は昭和39年4月の『別冊文芸春秋』(第87号)に掲載され、土佐の足軽出身で幕末に主に京都において暗殺者として活動した岡田以蔵を描いています。前4編が幕末期にそれぞれの立場で政治や軍事の中枢にあった人物を描いたのと異なり、『人斬り以蔵』はいわゆる末端の現場で行動した人物を描写しています。
『王城の護衛者』は5編のなかでは一番長く100ページ程ありますが比較的短時間で読むことができます。会津松平家の成り立ち・家風からなぜ戊辰戦争や会津戦争を戦わなければならなかったか等が良く理解できますので、今年のNHK大河ドラマ『八重の桜』をご覧になっている方には是非一読することをお勧めします。ただしドラマの主人公である「山本八重」は全く登場しません。
『王城の護衛者』
著者 | 司馬遼太郎 |
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出版社 | 講談社文庫 |
発行年月 | 2003年12月1日 |
価格 | 590円(税別) |
(平成25年9月号)