勝井 豊
「やさしいだけじゃ、医療は守れない!」と叫んでいるのは、なにわのトラブルバスターこと尾内康彦氏である。大阪府保険医協会の事務局次長を務める一方で、毎月30~50件のトラブルの相談を電話で受けており、そのうち患者にまつわるものが大半を占めているとのことである。
最悪の事態を想定して対策をとる「先見性」と、相手の悪意をはね返す「勇気」と、多くのトラブルをこなすことによって身につく「現場力」が、モンスター患者を跳ね返すと、2000件以上の解決実績をもつ著者は力説している。
ほんの一握りの問題患者が職員を疲弊させて、診療の屋台骨を揺るがすことになりかねないので、診療所の場合では院長または事務長自らが率先して行動すべきことを、具体的な事例を提示して解説している。
トラブルの7割は患者の誤解から起きるとのことであり、その多くは「医療の不確実性」を理解していないことによる過大な期待や、医療のルールを自分勝手に理解していることが、原因になっているそうである。個々のトラブルの内容は千差万別であるが、本当の不満や要求をしっかりと見抜いたうえで、的確な対応をとって速やかに解決すべきであると説いている。
また暴力や暴言は絶対に許さないとの毅然とした態度が重要であり、その際に最も頼りになるのは警察であるので、ふだんから顔の見える関係を築いておくのがよいとアドバイスしている。暴力をふるう恐れのある相手と話し合うときには、必ず2名以上で対応をとることや、灰皿など凶器になりうる物をテーブルに置かないなどのノウハウが豊富に紹介されており、医療に関わるすべての関係者に一読をお薦めする次第である。
『患者トラブルを解決する「技術」』
発行 | 日経BP社 |
---|---|
著者 | 尾内康彦 |
価格 | 1,800円+税 |
(平成25年12月号)