井海 雄介
商業の町大阪を舞台に、借金にまつわる因業深い人間模様を描いた作品です。ご祝儀を盗まれてしまい穴埋めに奔走したあげく取り込み詐欺に手を出し破滅する男、詐欺的先物取引で全てを失う小学校教頭、法律の網の目をかいくぐる闇金融業者、更にはライバル企業との対決など、様々な人間や社会の裏表を描く。
零細の印刷会社に勤めていた灰原という青年が、その会社の倒産を契機に街金に就職。お金をめぐる人間模様は壮絶。淡々と仕事をこなすまじめな青年灰原が仕事にはまっていく姿もまた面白い。
抵当権や手形、債権、いろいろ勉強になります。また、カネに困って転落する人生になるのは強欲な人間だけじゃなくて、善良(だけど無知)な一般人だったりすることも多いようです。普段の何げない平穏な生活の隣りに潜んでいる転落への罠。普段、慎重な手堅い人間でも、ふとした拍子にハメられるときはある。サイン一つで何千万の借金を作るケースもあるようです。本作で食い物にされる多くの債務者は、法律や街金の搾取の手口を知らないために本来守れたはずの自分の権利さえ失ってしまうケースが非常に多く、法律を知っているか知らないかだけの差が命取りになるなど、キャラ以上の面白さがストーリーにあります。
私たち医療者は高校、大学と学んでいくなかで金融に関する授業は一度も受けていない人がほとんどではないでしょうか。本作を一度読んでいるだけで、金銭絡みの余計なトラブルを少なからず回避できると思います。
まずはこの本でお勉強を。
『ナニワ金融道』
著者 | 広江克彦 |
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出版社 | 理工図書株式会社 |
文庫版 | 全10巻 |