今泉 聡
著書『超訳 ニーチェの言葉』がベストセラーとなったことで知られる白取春彦著の2005年に初版されたロングセラー本です。子供が参考書を買うのに立ち寄った書店で平積みになっている本書を見かけ、そのタイトルに惹かれ購入しました。いまさら受験するわけではない私ですが、頭がよくなる「思考術」とは少々知的好奇心をそそられます。55項目のタイトルからなる本書は、簡潔かつ明確で、迷いのない言葉が、誰の心にもあるであろう、なにげないモヤモヤを吹き飛ばしてくれます。おそらくは時間が解決してくれる日々の悩み、クヨクヨ、マンネリ、行き詰まりをすぐに解決してくれる答えが書かれている指南書ではありませんが、悩んでいる自分に希望と勇気を与えてくれます。たとえば、「多くの人は他人の思惑を気にしているが、その思惑とは自分が想像している思惑である」「心配するとは悪いことを想像すること、ひそかに悪い結果を期待していること」「人生をつまらなくするのは簡単で、結果や報酬を目的として生きればいい」「一枚の紙切れでも、飛行機の形に折れば、遠くまで飛べる、つまり、心の持ち方を変えることで不可能を可能にできる」「無駄な雑用はない、何事にも熱く関われ」「欲望から離れよ、高額品に価値を与えているのは自分の考え方なのだから」「あたりまえを疑い、押しつけられる伝統や制度、道徳に負けるな」「過去は変えられないけれど、過去のもつ意味は変えられる。苦しい時期を飛躍への準備期間と考えればいい」「自分の弱さを排除するよりも、弱さを受け入れて生きるほうが強くなれる」…。このような言葉の意味を著者の体験、エピソードを混じえ書かれています。よくある社会的成功者の自己啓発本のような著者の誇らしさをただよわせた内容ではなく、また、哲学書のような硬さはなく、わかりやすい言葉で、特定の宗教、哲学、団体の意向に偏らない、正しく考える術を、理解しやすく書かれています。「考えることを放棄してはいけない」「悩むことも悪くはない」と改めて実感させられます。
白取春彦氏の著書には、ニーチェをはじめ、ショーペンハウアー、ヴィットゲンシュタイン、カントなどの哲学、また聖書や仏教をわかりやすく解説しているものが多くあります。彼が真の哲学者なのか、生活のための多作職業作家、又は胡散臭い作家なのか、世評は分かれているようです。深く哲学を学んでいない私にはどちらかはわかりません。しかしそのような評価とは関係なく、その気になれば立ち読みで終りまで読めてしまう、小さく短い本書ですが、そばに置いて時々見返したくなる、心を落ち着かせてくれる良書に思います。
『頭がよくなる思考術』
著者 | 白取春彦 |
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出版社 | ディスカヴァー・トゥエンティワン |
定価 | 1,200円(税別) |
(平成26年6月号)