鷲山 和雄
本書『単身急増社会の衝撃』は2010年に刊行されました。同年はNHKが報道番組で使用した造語「無縁社会」が流行語大賞を受賞した年です。孤独死の増加、消えた高齢者、孤族などという言葉が社会の耳目を集めるようになった頃です。その後も、関連する新たな類語が次々と生み出されています。現代日本が抱える大きな課題として、誰もが意識せざるを得ないからなのでしょう。しかし、エビデンスとなる統計情報を私たちがどれだけ正確に理解しているかとなると、もちろん私も含みますが、怪しい限りです。一般に私たちは、専門外の分野事象に関して、とかく誤った知識と、それに基づく認識を持ち続けることが少なくありません。新聞等でも、毎回そこまで詳しく解説されないからです。従って、私たちが人口問題や福祉問題を考える時には、各自の思考をリセットし直すためにも、関連する統計情報の解説本(本書)は大変参考になります。
本書は単身者や単身世帯を中心とする社会事象を扱った書籍であるにもかかわらず、発刊4年後の現在も、内容に旧さを感じさせません。それは、解釈の難しい統計情報を、著者なりの視点で噛み砕いてグラフ化し、日本に留まらず世界的な視野で、多様な視点を紹介しているからなのだろうと思います。日本より先に高齢化社会を迎えた欧米の制度紹介の下りでは、日本とは異質な、彼らの人生観、国家観を垣間みることもできます。日本の方が異質なのかもしれません。
著者はみずほ総研の主席研究員で、社会保障政策・労働政策を専門にし、約4年間のイギリスでの勤務歴があります。後書きで著者は、地方に住む70代半ばの父親の介護経験が、単身世帯を考える上での契機になったと述懐しています。子供時代に三世代同居家庭で育ったものの、様々な理由から親子離れて暮らさざるを得なくなり、家族による介護力の低下は昔と較べようもないことを改めて認識したとのこと。母親による老老介護や自らの遠距離介護を実体験し、日本の介護保険制度の導入を有り難く思いつつも、もしそれが「単身世帯」であれば(親は)どうなったであろうかと考えることが契機になったそうです。
本書は、1)単身世帯の実態、2)単身世帯の増加が社会にもたらす影響、3)海外の単身世帯、4)単身世帯の増加に対して求められる対応、の4部に分かれています。必要にして充分な統計情報とその解釈を記し、章ごとに論点を整理しています。巻末には邦文と英文の参考文献と、そして、本文中にはそれぞれの文献番号も明示されており、医学書では当たり前のことですが、一般書には見られない記述スタイルとなっています。専門外の私にとっては過剰な情報ですが、おそらく福祉分野の専門家にとっては大変に分かりやすい参考書になっているのであろうと思います。
ちなみに、大学生である末娘の読後感想は「こんな暗い本は読みたくなかった」でした。そうでしょう。若者はそんなことを考えなくて宜しい。
『単身急増社会の衝撃』
著者 | 藤森克彦 |
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出版社 | 日本経済新聞社 |
定価 | 2,200円(本体) |
初版 | 2010年5月 |
(平成26年10月号)