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新潟市医師会報より

新潟市医師会

『働かないアリに意義がある』

丸山 友裕

実はアリは働き者ではなかった!

皆さんは子供の頃、庭や家の軒先を行列する蟻を見たことがあるだろう。

これをよく観察するととても面白い。巣に向かってひたすら重い荷物を背負って運ぶもの、手ぶらでただついていくもの、そうかと思うと列から外れたりして勝手にうろうろするものなど。概ね真面目に働くもの7~8割、それ以外はサボっているのである。

ある研究者がこれに着目し、働きの良い蟻だけを集めて「精鋭部隊」を作ったらもっと効率よくなるのではないかと考えた。

しかし結果は見事に予想が外れた。やはり2~3割はサボるのであった。逆に最初にサボっていた蟻を集め「怠け者部隊」を作った所、やはり7~8割は働いたそうである。

数年前この研究がある新聞で取り上げられると、大反響を生んだ。

翌日の新聞には「働き蟻の2割はずっと働かず───この研究やった人ヒマだよね」という投稿ジョークが紙面に載り、本書の著者であるこの研究者は笑ってしまったそうである。

実際は1日に7~8時間の観察を2か月以上続けるというハードな研究で、観察を担当した1名は疲労から点滴を打ちながら観察を続け血尿まで出したという、まさに血のにじむ思いの研究であったと述べている。

この研究によると巣の中にいるアリも含めると7割は働いておらず、よく働くのは2割程度の事。

社会学の世界でまことしやかに言われている「2:8の法則(パレートの法則):商品の売り上げの8割は2割の顧客で生み出されている、2割の従業員が8割の売り上げを生み出している、等の経験則」が、このアリの世界では実在したのである。

本書では、この研究と他の種のアリやミツバチなどの真社会性生物の生態の研究とそのメカニズムの解明を行い、この具体的な意味を洞察し、人間社会との比較検討を試みている。

一見お馬鹿さんに見えるアリが一定数いた方が、フラフラと列から離れて迷っているうちに近道を発見するなどして、群全体としてはエサの持ち帰り効率が上がるという。

冒険の全くない人生が味気ないように、効率ばかりを追い求める組織も実は非効率なのかもしれない。

人間のような知性があるとは思えないアリが、どのようにして司令塔もなしにこのような社会システムを完成させ、維持しているのか。その回答は労働に対する「反応閾値」の多様性であるという。各個体の反応閾値が異なることにより、環境の変化に対応して行動を起こすアリが増えるという仕組みであった。

本書で語られている内容は、会社の経営者などはハタと膝を打つ部分も多いだろう。また、通常は社会問題とされる「失業者」も安定的な社会の存続のために余力として必要であることも理解できる。

アリ社会をわが身に置き換えると

私も10数名のスタッフを抱えるクリニックを経営する立場で、このアリ社会をわが身に置き換え、肯くことしきりであった。手前味噌であるが、少しご紹介しよう。

常勤看護師(働いているアリ)の他にパート看護師(よくサボるアリ)をかなり多めに確保し、いつでも交代できる(好きな時に理由を問わず有給休暇を取れる)システムにしている。パートなら働きたいという看護師は実はかなりおり、潜在的な労働力は多いのである。給料の多寡よりも、「いつでも休める」というのはかなりポイントが高いようである。下手に辞められて次の人材を募集して育成するのに数か月を要するよりも、経営効率は高い。

また、休暇を取るに当たり、代理出勤者の負担や同じ日に休み希望が集中しないように配慮するなど、私がいちいち指図しなくてもお互いを思いやって仕事をするようになっている。女同士の社会なのに喧嘩や派閥は全く生じていない。私が気づいていないだけかもしれないが。

また、開業9年が過ぎ、若干マンネリ化してきたところで、敢えて不採算部門を設立し、そこに潤滑剤となるような(要するに愛嬌のある)人材を配置。本来のクリニックの業務を学ばせながら、独自の仕事も自由にさせている(規格外の採用によるリスクヘッジ)。

このことで職場の雰囲気がまた更に明るくなり、元々の職員の意気も上がっている。

一見経営効率が下がるようなことを敢えて行っているが、辞める職員もほとんどなく、結果として効率は上がっており、私個人としては労働基準法を厳格に守っているという自負につながっている。

ライオンはわが子を千尋の谷に突き落とすか?
~進化生物学と動物行動学のすすめ~

以下本書の内容から離れるが、私にとっては進化生物学や動物行動学は極めて興味深い分野である。人間が他の生物と異なる点は「知性」や「倫理観」を持つことであろうか。「恨み」などという厄介なものも人間の特性かもしれない。

我々人間社会に渦巻く不合理や解決しがたい問題、例えば、継子いじめ、家庭内や社会における暴力、失業、果ては戦争などの問題はこれらの学問の一端を知ると、どこに原因があるのかほの見えてくる。一介の生物である人間が、社会の諸問題を解決する上で、これらの学問から得られた知見を参考にすることは大変有用であろう。

ライオンはわが子を千尋の谷に突き落とし、這い上がってきたものだけを育てるという。皆さんの中で、いまだにこのデマを信じている方はどれくらいおられるだろうか。このような子育ては動物行動学上全くあり得ないし、ましてやライオンの生息するサバンナに千尋の谷など存在しない。このデマはおそらく以下に述べることが誤って伝えられたのであろう。

雄ライオンは群れを乗っ取ると、群れの中の仔ライオンをすべてかみ殺す。子供のいなくなった雌ライオンは発情し、乗っ取った雄ライオンと交尾し、その子供を産む。その結果、乗っ取った雄ライオンの遺伝子はその群れの中で受け継がれていく。

遺伝子のビークルである「個」は生物本来の機能を発揮しつつ「社会」を構成し、この「社会」は環境の中でより適応力を高めるというスパイラルがきちんと機能している。

上記の動物行動学を理解していれば、例えば、人間社会において「子殺し」「ネグレクト」を行った養父個人の(生物学的には仕方がないと思える)行動を、単に「個人の悪」として裁くよりは、生物学的側面を考慮した予防策も必要であることがわかる。

一介の生物として人間が背負った「業」とも言える性質を知った上でこれらの諸問題をどう解決していくかが、人間の知性であり倫理ではないだろうか。

いかりや長介はエライ

かつての名コメディアングループ「ザ・ドリフターズ」は加藤茶や志村けんといった芸達者がいる一方、あまり芸達者とは言えない高木ブーも存在した。

側近がリーダーのいかりや長介に「無芸な高木ブーを切ってはどうか」と進言したことがあるそうだ。

それに対していかりやは「いや、これでいいんだ。社会には、切れ者からそうでないものまで一定の比率で存在する。このバランスが良くて社会は初めて成り立つ。ドリフターズとは社会の縮図であり、このバランスで成り立っている」と答えたという。

どんな世界でも、トップに立てる人間は物事の本質を直感的に知ることができるのであろうか。

『働かないアリに意義がある』

著者 長谷川英祐(進化生物学者)
出版社 株式会社メディアファクトリー(メディアファクトリー新書)
定価 740円(税別)

(平成27年2月号)

  • < 『ソロモンの偽証』
  • 『愛着障害』子ども時代を引きずる人々 >
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