風間 隆
昨年末、里帰り出産のために我が家に帰っていた長女に第一子が生まれた。初孫である。生まれてまだ数日なのに、私の目をじっと見つめ続けるのには驚いた。すでにコミュニケーションが始まっていたのだろうか。私たち夫婦がしょっちゅう抱っこするので、娘は笑いながらも、抱っこ癖がつき、甘えん坊になるのではないかと心配した。本書を読んでいたので自信を持ってそれを否定した。『よく抱っこされた子は、甘えん坊でいっけん弱々しく見えて、実のところ、強くたくましく育つ』のだ。
愛着とは『人と人の絆を結ぶ能力であり、人格のもっとも土台を形作っているものである。人はそれぞれ特有の愛着スタイルをもっていて、どういう愛着スタイルをもつかにより、対人関係や愛情生活だけでなく、仕事の仕方や人生に対する姿勢まで大きく左右されるのである』という。愛着スタイルの形成には遺伝的要因の関与は小さく、とくに生後半年から1歳半までの養育環境が重要である。その期間中に養育者との関係が安定的に形成されないと愛着の問題を生じることになる。
愛着がスムーズに形成されるためには、求めたときに養育者から十分なスキンシップを速やかに与えられることが重要で、それを繰り返すことで両者間に特別な絆を形成することができる。とくに母親の愛情を受けることが大切だという。死別や離婚による別離、養育者の交代、養育者からの虐待などはとくに愛着障害という大きな問題が起こす可能性があり、それが生じると、その後の人生に大きな影を落とす。作家や文学者に愛着障害を抱えた人がとても多いという。本書で紹介された例をみると、彼らの養育環境と苦悩において多くの共通点があるのには驚かされた。しかし、彼らにとって愛着障害はむしろ創造の原動力になっているのではないかと考察されている。
特別な問題がありそうにない普通の家庭で育った人でも、およそ3分の1に愛着スタイルに問題があるという。意外に高い割合であることに驚かされる。私たちの周囲には予想以上に多くの人々が対人関係などに前述した問題を抱えているということか。その原因は、親になったときに子供との関係において最も愛着の問題が顕著に現れることにあるという。幼小児期に愛着パターンと呼ばれる過渡期的な愛着スタイルが形成される。とくに母親に愛着スタイルの問題があると、その子の愛着パターンの形成に大きく影響する。愛着は重要な問題であるのにもかかわらず、残念ながら専門家の認識が遅れていると指摘している。そして、より効率を求めようとする最近の社会環境の変化は、愛着を軽視し、損なう方向性をもたらしていると警鐘を鳴らしている。
子供の愛着スタイルは母親からだけでなく、当然父親やその他の周囲の人々からの影響も受けながら形成される。私たち祖父母の影響も小さくないに違いないが、両親の代わりはできない。もっと孫を抱っこしてやりたかったが、2月初めに東京の自宅に帰ってしまった。迎えに来た父親が愛おしそうに抱っこしていたのが微笑ましかった。これからは、父親からもたくさんの愛情を受けて欲しいものだ。
『愛着障害』子ども時代を引きずる人々
著者 | 岡田尊司 |
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出版社 | 光文社新書 |
定価 | 929円 |
(平成27年3月号)