穂苅 環
デビュー作『告白』がいきなり本屋大賞受賞。しかも、読むと厭な気分が後をひくミステリー(イヤミスというらしい)で衝撃的だった。その後松たか子主演で映画化されヒットし、大ベストセラーになったのは記憶に新しい。
その後も『母性』『望郷』と新作が出るたびに読んだ。テレビドラマでは『Nのために』『贖罪』の原作であり、指折りの人気作家に登りつめた。人間の中にある悪意や不寛容を容赦なく書きたてて、ミステリー界で一つのムーブメントを起こすほどの筆力だ。
そんな彼女の新作は20年前の阪神淡路大震災の日と同じ、1月17日発行である。震災でつらい思いをした若い女性達が主人公。死者や切ない記憶に寄り添い、あるいは囚われるようにして生きてきた4人の女性の暮らしぶり、心模様を丁寧に描いている。長閑な南の島トンガで彼女らが重なり合い、時空間を超えて関係していくうまい描き方である。湊かなえ自身の震災体験や青年海外協力隊に参加した経歴など、自伝的要素も感じられ、感情移入が心の琴線に触れる。日本からはるか遠い、南太平洋に浮かぶ島国トンガに、ぶらりと行ってみたい気分にもさせてくれた。日本からのツアーもあるのかしら?と、しばし、旅の夢が膨らんだ。
彼女特有の「毒」が感じられないので、ある意味物足りなさもある。しかし湊かなえファン、特に女性向けとしては必読の短編集、いやひとつの長編である。これからもさらにパワーアップして、女性ならではの目線から、イヤミス「告白」を超える、ユニークな作品を期待したい。
『絶唱』
出版社 | 新潮社 |
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著者 | 湊かなえ |
価格 | 1,400円+税 |
(平成27年9月号)