木村 洋
追悼:天野 尚さん
天野氏を直接知らなくても、洞爺湖サミットの首脳会議の席で「佐渡の金剛杉」の写真が飾られた事をご存知の方は多いのではないでしょうか。
世界的な写真家であり、かつ水槽に水辺の生態系を再現する世界的な「ネイチャーアクアリウム」の提唱者でもある天野さんが8月4日に61歳で逝去されました。そしてお別れの会が去る9月28日朱鷺メッセで開かれました。仕事の関係で残念ながら、お別れの会には出席出来ませんでした(妻が出席)。生前に特に親しくしていただいた訳ではないのですが、知人の紹介で、何度か彼の主催するワイン会で一緒になる機会があり、最近の自然破壊を憂い、水草の生える緑の水辺(ネイチャーアクアリウム)の大切さ、自然の貴さを伝えようとする彼の情熱を感じ、夫婦で彼のサポーターの末席に名を連ねて、陰ながら応援して来ました。そして、彼のスケールの大きな写真に魅せられ、何点か写真を購入し(サインも入れてもらい)、時々家に飾っています。
彼は元競輪選手という異色の経歴を持ち、自然環境写真家の第一人者であり、アマゾンを中心とした熱帯雨林の壮大な写真で有名です。デジタルカメラ全盛の時代にフィルム写真にこだわり、最大8×21インチという特大フィルムと大型カメラを駆使して、デジタル写真を超える、視力6.0の世界を切り取っています。最近は環境破壊を憂い、いろいろな啓発活動も行っていました。特に自然回帰の思いと、ふる里新潟への思いを強く持つようになったようです。ここに紹介する本は題名の通り新潟の美しい風景を撮った写真集です。彼の理想とする越後の原風景ともいえるものばかりです。団塊の世代としてはとても懐かしく愛おしく感じられます。まさに未来へ伝えたい「新潟の風景遺産」です。私が言葉で説明するよりも、百聞は一見に如かず、是非ご覧いただきたいと思います。
また、遺作集となる天野 尚作品集『創造の原点:Origin of Creation:TAKASHI AMANO Biography』(発行:アクアデザインアマノ)も彼の人となりを見ることができる一冊であり、こちらもご覧いただけたら、更に彼の偉大さが感じ取れるのではないかと思います。
もう一つ彼の業績であるネイチャーアクアリウムについて一言。水槽に水辺の生態系を再現する独自の芸術で、これも彼が自ら開発したものです。水草を育て、水槽の中に良好な環境を作り、さらに魚やエビなどの生物を一緒に育てることで自然を再現する。そして自然の美しさと調和のとれた環境が融合して創られる独自の世界。健康に育った水草が生い茂り、色とりどりの熱帯魚が泳ぐ美しい水景は人の心も癒す。まさにアマゾンの大自然における生命の循環が彼の理想とするところなのではないかと感じます。東京スカイツリーに併設されている、すみだ水族館にその一つがあります(次頁写真参照)。一度見てきましたが、何とも言えぬ空間で、10m水槽に水中のエビ、小魚、水草などが一体となって自然を形成しています。まさに彼の描く理想郷を思います。時を忘れていつまでも佇んでいたい思いでした。真に癒されるひと時を過ごしました。こちらも機会があれば皆様もどうぞお出かけください。私としては彼の最後の渾身の作品(命を懸けたともいえる)ポルトガルのリスボン水族館にある40m水槽を是非見てみたいと思っていますし、残念ながら彼の生前に見る機会を失ったご自宅の水槽も見果てぬ夢です。
彼の巻弁をもう聞くことはできません。ご冥福を祈ります。
『美しき新潟 未来への記録:天野 尚写真集』
出版社 | 新潟日報事業社 |
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著者 | 天野 尚 |
定価 | 3,333円+税 |
(平成27年12月号)