五十嵐 謙一
前にも書きましたが、休みの日などに山歩きを楽しんでいます。始めた頃は角田山・弥彦山など低い里山に登っていましたが、経験も体力も無かったので疲れきってなんとか山頂にたどり着くようなありさまでした。それでも継続は力なりで、五頭山・菅名岳・守門岳など次第に標高の高い山に登るようになってくると、さらに高い山頂に立ってみたいと思うようになりました。そこで、苗場山・巻機山などに挑戦したのですが、地図でみるとそのような山には「百名山」と印が付いていました。これらは、深田久弥の『日本百名山』に掲載されている山々でした。それからも、どの山へ行こうかと地図を眺めていると、ついつい目につく「百名山」に登ろうと考えてしまいます。しかし、そもそも「百名山」とはどんな山なのか? 『日本百名山』を読んだこともない人間に「百名山」を目指す資格も無いかなと思い、初めて手に取ってみました。
『日本百名山』は1964年に初版が出版された本で、登山家で作家である深田久弥が自身で山頂を極めた山から、品格・歴史・個性のある山で、大よそ1500m以上という基準で選んだ山々を綴ったものです。当時、作者がどのようにして山頂を踏み、そこから何を眺めてどう感じたのか。自分が登った山々を思い出すと、登山ルートや時代背景が違っても共感できることが多く、また、地域の人たちの生活に大きな影響を与えてきた山の成り立ちや歴史が記載されているので、山々に新たな魅力を感じることができました。さらに、山をとりまく様々な事柄を知ることで、登る対象としてだけ考えていた山々に違った側面からの興味を持つことができ、これからの登山がいっそう興味深く意欲をかきたてられるものとなりました。
なぜ「百名山」なのか、どうやって「百名山」を選定したのか? 深田自身も自分の主観で選んだと言っていますし、実際に登っていないという理由だけで選ばれなかった山もあり、将来山の差し替えも考えていたようで、百で区切ったことや選定の基準にいろいろと異論・反論もあるようです。また、この本のために、山を楽しむのではなく百名山を踏破することだけを目的として山に登っている人が増えているとの批判もあります。それでも、『日本百名山』は発刊されて50年以上経過した現在でも広く読み継がれ山岳文学の古典ともいえるものとなり、掲載された「百名山」は日本の山の象徴のようになっています。いろんなことを踏まえたうえで、山の好きな人ならやはり一度は手にとってみる価値のある本と思います。
私はと言えば、とりあえず毎年一座新たな「百名山」に登ることを目標にしていますが、それとは別に、いろいろな季節にいろいろな山に登って「自分の百名山」を心に刻みたいと思っています。
『日本百名山』
著者 | 深田 久弥 |
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出版社 | 新潮文庫 |
価格 | 750円+税 |
(平成28年3月号)