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新潟市医師会報より

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『「学力」の経済学』

佐藤 勇

遙か昔、学生だった頃に教養過程で受講できる経済学は、いわゆるマルクス経済学(非近代経済学)であった。あの頃、経済学には哲学の香りがあり、すこしロマンもあった。

6年前、にいがた市民大学で経済学を受講した。8回にわたる講座ではGDP、物価水準、雇用など所得分析を行うマクロ経済学と消費者・生産者の行動を通じて価格分析するミクロ経済学という近代経済学の2つの分析体系にそって講義が進められていった。元々定年をすぎた年齢層を対象にした講義(と勝手に思い込んでいました)なので、噛み砕いた内容になっているはずであるが、噛み砕いて数式を表すグラフや図を多用することで、より難解な数学的講義になっていることを感じた。発達障がいの子ども達への指示は、噛み砕いた指示は厳禁で、直感的なショートセンテンスが有効であることを思い起こさせた。

哲学から数学に変遷していった近代経済学は、よりマクロデータを用いた分析手法により、様々な事象を解析し、科学的根拠(エビデンス)で決着をつけようとしている。「学力」を解析対象にし、「子どもはほめて育てるべきか?」「ゲームは子どもに悪い影響があるのか?」「子どもを勉強するために褒美で釣ってはいけないのか?」といったありふれた疑問にエビデンスをもって答え、常識と思われている答えと少し違った結果を導き出している本が、本書である。

一時期、東京の書店で山積みにされていたので、読まれた方もいらっしゃることだろう。この本の核心的部分の一つ、就学前教育が成人後のある要素を決定するという部分を、孫の親である息子に伝えたくて持参したところ、「もう読んだよ」とあっさり言われ少しがっかりしたことがあった。

子どもがいる家庭は、年収の約40%を教育費に使っているという日本政策金融公庫の調査がある。この事実の裏には、教育さえ受ければ将来の収入が高くなるという期待もあると思われる。経済学的に表現すると、教育から得られる「便益」から教育に支払う「費用」をひいた「純利益」が最大化するように、家計は教育投資の水準を決定していると言える。いわゆる将来に向けた「投資」としての「教育」である。「投資」がある以上「収益率」を考慮するのは自然の行為である。この収益の中に、金銭的なものだけでなく、「教育を受ける喜び」といったようなことも数値化できれば、より現実的な数値が見えてくるかもしれない。

このような考え方をもとに、「子どもの教育に時間やお金をかけるとしたら、いつがいいのか」という命題に対して、研究蓄積がかさねられ、多くの経済学者が一致した見解をもつようになったという。中学や高校など、大学進学前に十分な投資をすることが、いい結果をもたらすのであろうか。意外にも、「もっとも収益率が高いのは、子どもが小学校に入学する前の就学前教育(幼児教育)である」が結論だという。これは、人的資本投資の収益率を解析した結果から導かれた結論だという。

この結論だけ見ると、「さっそく就学前から学習塾に通わせよう」と考えてしまいそうであるが、ここでカギとなっているのは、人的資本という言い方をしている点である。この人的資本とは、人間の持つ知識や技能の総称なので、しつけなどの人格形成や体力、健康などへの支出も含むという。幼児教育の重要性は、本書のなかでさらに展開されるのであるが、このデータを見ながら、ふと思い出したことがある。発達障がいの子ども達の就業率が、特別支援学校によってかなり差があるという事実である。そして、就業率の高い支援学校では、読み書きそろばんを教え込むことでなく、しつけの三原則、へんじ、あいさつ(ありがとう、ごめんなさいも含む)、くつをそろえてぬぐ、を徹底して教えている。つまり、社会に出る、働くと言うことは、人間関係が出来て初めて成立する行為であり、その基本が出来ることが最も大切なことであるという事実をあらためて考えた。

本誌が発刊されるころ、盛岡で第22回日本保育保健学会が開催を終えている。おりしもこの学会の教育講演で、筆者の中室牧子先生が「教育に科学的根拠を」という講演をされている。初めて聴講するので楽しみにしている。なお、この学会は2年後の第24回を柳本利夫先生が会頭となり、新潟市朱鷺メッセで開催される。

『「学力」の経済学』

著者 慶応義塾大学 総合政策学部准教授
中室牧子
出版社 ディスカヴァー・トゥエンティワン
定価 1,728円

(平成28年10月号)

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