細野 浩之
『ポーラースター ゲバラ覚醒』という何やら『スターウォーズ フォースの覚醒』を思い浮かべるような題名を本屋で見かけました。じっと表紙を眺めると、旧型のモーターサイクルNorton500にまたがるゲバラとグラナード(この小説ではピョートルでしたが)がいる。POLAR STAR? 南半球の夜空にはないはずだし、北極星は南半球からではほぼ見えないはずだし…? POLAR STARは南米の夜空に輝くゲバラのこと? もう一度じっくりとみると『チーム・バチスタの栄光』を書いた海堂 尊が新たに書き下ろした、チェ・ゲバラを主人公にした小説であることが分かり思わず手に取ってしまいました。何で今ごろ? と思ったら、来年はゲバラ没後50年だそうで、それに合わせて完結するように第一弾が発刊されたようでした。ゲバラについて語る本は何十冊もあり、数多く研究され、映画にもなっているし、また本人の書いた本も残されているのに、ゲバラが主人公の小説かあ…? 青春におけるヒーロー、チェ・ゲバラ。そんなヒーローを下手な物語で汚さないでくれよ、と思いつつ一冊とってレジでお金を払っていました。
家へ帰り、まずはページを開くと初めに「心優しい色男ゲバラ青年」が美しい女性の部屋から出てきて…その後はあっという間に読み進んでしまいました。途中実在の有名人、大統領、作家などの登場人物も南米のこの時代の歴史を作るうえで重要な人物でしたが、名前しか聞いたことがない程度の人ばかりだったので、この物語を読みながら並行してその人物を調べるのに少し手間をかけながら読んでいました。結構それが現代の南米の歴史やゲバラの背景を少し理解する助けになったりしました。
この物語はほぼフィクションです。しかしゲバラも実在の人物ですし、史実にある有名人も多数出てきます。医大の卒業前に友人とモーターサイクルで南米の各国を旅する物語の筋も史実に忠実ですが、登場してくる周囲の人物や各国で出会う人には作り話や脚色が多くみられます。作者の海堂さんも言っていますが、あえて史実を変えて書いてあるところもあります。ただフィクションですが、ゲバラだったらこう感じたんじゃないか? ゲバラだったらこう考えて行動したんじゃないか? ゲバラだったらこう発言したんじゃないか? と各場面で思えて、ワクワクするのです。フィクションと史実が混在してスケールが大きくなっています。海堂さんは「描いているゲバラの気持ちは実際とさほど違っていないと思う。それは私がゲバラと同じ土地を旅し、風景を見、確信をもって書いているからです」と言っています。その裏付けにはさらに膨大な参考資料があり、この第一弾の一冊に百冊以上の参考資料が出てきますし、シリーズ全体では700冊以上の資料を手元に置いて書いているそうです。
物語はまだまだ続きがあります。南米(南半球)の夜空に輝くポーラースターとなるチェ・ゲバラの物語。続きはおそらく来年。第二部は「中米編」、第三部は盟友「カストロ編」、第四部は「キューバ革命」の予定だそうです。第三部、第四部はカストロがどのようにかかわっていくのか? そしてこのシリーズが、ゲバラ没後50年(2017)の年に完結するのか? それともゲバラ生誕90年(2018)の年までかかるのか? マイライブラリィに4冊がそろうのはまだまだ先のようです。
『POLAR STAR ポーラースター ゲバラ覚醒』
著者 | 海堂 尊 |
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出版社 | 文藝春秋社 |
定価 | 1,750円(税込1,890円) |
(平成28年11月号)